ゆりかもめで偽装請負 安全軽視、信頼裏切り  労働局が是正求める〈3月8日号より〉

 東京都が出資する“株式会社ゆりかもめ”(櫻井務社長・元東京都労働委員会事務局長)が、偽装請負をしていたとして東京都労働局から是正指導を受けていたことが明らかになりました。都税を投入する公共性の高い第三セクターが、労働法に抵触し安全を軽視していた事実は都民の信頼を裏切るものです。

 ゆりかもめは新橋駅と東京臨海副都心の豊洲を結ぶ高架式の新交通システムです。2006年には脱輪事故で2日間、運行停止しています。

 駅業務は株式会社京王設備サービス(京王設備)に委託されています。緊急時や異常時の指揮命令は、ゆりかもめの社員から、京王設備の非正規の委託社員が直接受けることになっています(図)。しかし、京王設備で唯一の正社員である責任者は、午前8時から午後5時のみの勤務。この責任者以外は、すべて定時社員と呼ぶ京王設備の時給1100円の非正規労働者の駅員しかいませんでした。

 早朝や通勤ラッシュ時、酔客が増える夜間には、京王設備の正社員が不在のため、駅に勤務する京王設備の非正規労働者駅員が、「ゆりかもめ」側より直接指示を受けるしかありません。実質、駅業務の委託ではなく“駅員の派遣”という構図が見えます。

 東京労働局は「平成24年度厚生労働省告示518号労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(偽装請負)に抵触するとして、昨年12月京王設備に、今年1月ゆりかもめに「文書で是正を指導した」と関係者が労働局の需要調整指導官から報告を受けています。

 東京民報の電話取材に対し京王設備は「指導を真摯に受け止め、厳正に対処します。報告書は労働局に提出し、すでに改善しています」と答えていますが、具体的な改善内容について回答を避けました。

 ゆりかもめ総務部は「回答する必要がありますか」と強弁。その後、一度は「是正を受けました」と回答したものの、すぐに「いや、受けていません」と前言を翻しました。

労災隠し疑惑、大量退職まで

 ゆりかもめの駅業務はワンオペと呼ばれるひとり体制の駅もあります。非正規の労働者が駅業務の合間にゆりかもめに乗車して移動し、忘れ物センターでの受付業務や定期券販売、他駅での休憩駅員との代替や応援の他、事務作業などもこなしています。

無人の自動運転で汐留駅に入線するゆりかもめ=港区

 昨年9月15日午後10時15分頃、京王設備の責任者不在の時間帯でワンオペ勤務中に、汐留駅ホームで事故が起きました。非正規労働者の駅員が電動車いすを運転する客を誘導中、左足を車いすに轢かれて受傷。駅員はゆりかもめ側に事故を報告し、翌日に病院を受診しました。

 ケガをした駅員は非正規でも労働災害(労災)で対応されるものと思っていましたが、京王設備の責任者から「報告がないために労災の適用が出来ない。ゆりかもめへの報告は報告とみなさない」と一度は言われたといいます。「ゆりかもめから京王設備への連絡がなかったことと、ゆりかもめと京王設備の事故対応の不備と不徹底が招いた結果を従業員に押し付ける行為だ」とケガをした駅員の関係者は憤っています。

 こうした中、ゆりかもめ業務に従事する京王設備の非正規労働者の駅員が13人中7人、昨年10月時点で退職届を提出する異常事態も起きています。退職者の内複数が、東京地裁に未払い賃金の支払いや損害賠償などを求めて調停を申し立てています。

 退職届を出したひとりは①雇用契約書記載の労働時間と実態が見合っていない②退職理由を契約と違う旨と退職願に書いたところ、自己都合と書き換えさせられた③定時の日でも人員不足のため、午後8時までの就業の強要④公休日の出勤を強要され、断ると契約解除をチラつかされるパワーハラスメントがあった―などのために適応障害を発症したといいます。

第三セクターは民間の模範に

 ベテランの鉄道従事者は「公共性が高い企業として民間の模範となるべき第三セクターが、ブラック労働を率先していることは放置できません。公共交通機関として事故や災害時の危機管理意識も希薄だ」と批判しています。

 交通政策に詳しい関係者は「ゆりかもめはイベント時に乗客が急増します。駅警備業務までも人員不足の駅業務の委託先に担わせるなら、大事故が起きても不思議はありません」と警鐘を鳴らします。

 また「都は東京五輪大会の開催・会場輸送に向け、事故防止策と危機管理体制の充実が必須」と声を上げています。

 昨年、横浜の金沢シーサイドライン逆走衝突事故は無人の自動運転で起こり、17人が負傷していますが、事故調査の最終報告書は未完成です。「自動運転のゆりかもめも事故防止策の充実が急務」との指摘がある中、ゆりかもめの企業体質改善と都の責任が鋭く問われます。

(東京民報2021年3月8日号より)

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