【街角の小さな旅1】朝倉彫塑館と谷根千〈9月13日号〉

敷地全体が 芸術の小宇宙に

いま、小さな美術館が静かなブームを迎えています。

特定の芸術家の作品を展示する美術館、作者のアトリエや住居をも芸術空間として提示する美術館、浮世絵や陶磁器など愛好家が収蔵した工芸品を展示する美術館……。

朝倉彫塑館の入り口

東京にはこうした美術館が数多く存在します。

そのいずれもが個性的で、適度な広さの展示空間を自分の足どりで、ゆったりと、趣くままに鑑賞できることが魅力です。

シリーズの初回は、日本の近代彫刻の黎明期から現代美術の時代まで数多くの作品をのこした朝倉文夫(1883―1964)の彫塑館を訪ねることとしました。

JR日暮里駅から数分の住宅街のなかにある朝倉彫塑館。最初の展示室で迎えてくれるのが国の重要文化財に指定されている「墓守」。

朝倉は日本が封建制のくびきから解放され、美術の世界でも西欧に学んで近代化をすすめるために時の政府が設立した東京美術学校で彫刻を学びました。朝倉はそこでフランスのアカデミズムと表現方法としての写実主義を学び、「墓守」も徹底した写実主義で表現され、あくまでも静かに内省する姿があります。

展示室はかつてアトリエであったところで女性像や高さ3.8メートルもの巨大な男性座像などが展示されていますが、アトリエを支配しているのは静謐でした。

内省する静けさ

彫塑館の屋上と中庭

また、アトリエには朝倉が愛玩した猫をはじめ眺めていると、池の噴水の水が池面をたたく水音と蝉の声だけの時が流れていきます。朝倉が庭を外部に開放せず、家屋のなかに包みこんだのは、内省する静かな時空間を大切にしたかったからではないでしょうか。

屋上庭園があり、青年像が座していました。

朝倉彫塑館は朝倉自身が構想を練った建物が国の有形文化財に、敷地全体が国の名勝に指定されています。彫塑像だけでなく建物、中庭を含めた全体が朝倉の作品であり、小宇宙だったのです。

谷根千は坂のまち

夕焼けだんだんと谷中銀座商店街

谷根千は朝倉彫塑館をはじめ森鴎外記念館などの小さな美術館・記念館、伝統工芸品や民芸品を商うお店、食事処や若者に人気のカフェ、歴史を語る建物、東京の下町の風情が残る路地など、東京の人気スポットとなっています。

その谷根千は坂のまちでもあります。谷根千が武蔵野台地のはずれにあり、旧石神井川がこの台地を削ってできた谷筋にあたるからで、戦後、谷底にあたる谷田川、藍染川を暗渠化してつくられた現在のよみせ通り、へびみちを境に上野台側が谷中、本郷台側が根津、千駄木となります。

谷中は上野寛永寺の末寺など江戸期からつづく寺町。朝倉文夫をはじめ数多くの文化人が眠り、春は桜吹雪が舞う谷中霊園を抜けると三崎坂。夕焼だんだんから谷中銀座、よみせ通り、へびみちから上野不忍・池之端は手頃な散策コースです。

「根津は不思議な町である」地域雑誌「谷中・根津・千駄木」の編集人であった森まゆみさんはこう根津を紹介しました。

表通りの不忍通りから、一歩入るとそこには路地裏の世界が待っています。

江戸三大祭りの一つ例祭(今年は中止)、春のツツジ祭りで賑わうのが根津神社。

平塚雷鳥の提唱ではじめられた女性の解放をめざした青鞜社がおかれたのが千駄木。また、宮本百合子や高村光太郎、森鴎外など文人がくらした町です。藪下通りは夏目漱石も往来しました。

帰りに谷中銀座商店街で夕飯の惣菜を求め、夕焼だんだんから夕焼を眺めて、小さな旅を締めくくるのはいかがですか。

(東京民報2020年9月13日号より)

関連記事

最近の記事

  1. ① 発がん性物質PFAS「都は汚染源特定し対策を」多摩地域 都調査で21自治体検出 ② 日比…
  2.  9月17日から一週間、パリを訪れました。昨年11月、フランス大使館から連絡があり、同国外務省主催…
  3.  岸田内閣の首相補佐官に15日、国民民主党の元参院議員で、同党の副代表を務めた矢田稚子氏が就任しま…
  4.  株式会社東京民報社の第51期定時株主総会が9月22日、港区内で開かれ、事業報告や決算報告などが原…
  5.  急激な物価高や光熱費の高騰が国民生活を侵食し疲弊させているにもかかわらず、政府与党は効果的な施策…

インスタグラム開設しました!

 

東京民報のインスタグラムを開設しました。
ぜひ、フォローをお願いします!

@tokyominpo

Instagram

10月1日の制度開始が目前に迫ったインボイスに反対する、52万人超の署名の受け取りを岸田文雄首相に求める集会が9月25日、開かれました。インボイス制度を考えるフリーランスの会(STOP! インボイス)が主催。1000人以上が参加し、オンラインでも同時配信されました。
#日本共産党 の #山添拓 参院議員が9月17日から1週間、フランス・パリを訪れました。フランス外務省主催で毎年、世界各国から75人を招待する「将来を担う人材招聘プログラム」の対象となったもの。連載コラム「未来を拓く」特別編として寄稿してもらいました。
#日本共産党都議団 は9月20日、多数の樹木を伐採する #神宮外苑再開発(新宿、渋谷区)で、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の諮問機関 #イコモス(国際記念物遺跡会議)が再開発撤回を求める「ヘリテージ・アラート」発令などを受け、改めて秩父宮ラグビー場の移転建て替えを中止し、現在地での再整備を検討するよう盛山正仁文部科学相と日本スポーツ振興センター(JSC)あてに申し入れました。
#新宿区 は8日、#明治神宮外苑 の再開発事業者が申請した25本の樹木伐採を許可しました。このことに対し市民グループ「#未来に子どもたちの笑顔をつくる神宮外苑を考える会」は12日、新宿区役所前で抗議のスタンディングを行い、約40人が参加。#神宮外苑 をテーマにした #サザンオールスターズ の曲「#Relay ~ #杜の詩」を合唱し、「かけがえのない日本と地域の宝、神宮外苑を壊さないで」と訴えました。
環境省が東京電力福島第1原発事故で発生した汚染土を、#新宿御苑(新宿区内藤町)の花壇で「再生利用」する実証事業を計画している問題で、#日本共産党 議員や住民らは14日、環境省から直近の状況説明を受けるとともに、実証事業を強行しないよう求めました。
政府が10月から導入をねらう「#インボイス(適格請求書)」制度を止めようと、#日本共産党 の #小池晃 参院議員・書記局長とさまざまな分野のクリエーターらが語り合う懇談企画が14日、ネット中継されました。品川区議会で、インボイス延期の請願に取り組んだ「#品川フリーランスの会」が主催したもの。声優やイラストレーター、写真家、演劇人などが、小池氏と語り合いました。
ページ上部へ戻る