【書評】生きた時間を取り戻す 『モモ 時間どろぼうと、ぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語』 ミヒャエル・エンデ 作  大島かおり 訳〈2020年11月15日号より〉

 ドイツの作家ミヒャエル・エンデによって書かれた『モモ』が日本に紹介されて44年。このコロナ禍において話題になっています。どんなお話だったでしょうか。

 街はずれの廃墟となった円形劇場跡に孤児の女の子が住み着きました。モモといいます。施設から逃れてきたようです。大人たちは心配して面倒をみようとしますが「あたし、なんにもなくてもやっていけるの」という言葉を信じそれとなく一人暮らしを応援します。

 やがて大人たちはモモのところに来てはいろいろな話をします。モモはじっくり聞きます。そして人々は安心します。「モモのところに行ってごらん」が合言葉になるほどに。子どもたちはというとモモがそばにいてくれるだけで次々といろいろな遊びを思いつくのでした。

 しかし、その頃「灰色の男たち」─時間どろぼう─が人間の自由な時間を奪いに忍び寄っていました。成功し、たくさんのものを手にいれること、そのために時間の節約と効率を追求し、やがて人々は画一的になりとげとげしくなっていきました。灰色の男たちにとって、じっくりと話を聞いたり、夢を語って人を魅了するモモは邪魔者でした。

岩波書店 1700円+税 ミヒャエル・エンデ 1929‐1995年。ドイツの作家。作品に『はてしない物語』など

 そしてモモは、のんびりな亀に導かれて時間の国のマイスターに出会い「人間というものは、ひとりひとりが自分の時間をもっている。そしてこの時間は、本当に自分のものであるあいだだけ、生きた時間でいられるのだよ」と教わり、モモと「灰色の男たち」との時間をめぐる戦いが始まります。

 灰色の書類カバンを抱えた灰色の男たちは「経済戦士」のようでもあり、画一化された美しい街並みは東京のようでもあります。

 でもこの頃“時間どろぼう”という言葉をちらほら見かけます。「ステイホーム」を余儀なくされて、おそらく私たちはそれぞれの自分の時間に思いをはせることが増えたのかもしれません。

 “忙しさ”からは逃れられないかもしれませんが、できることならその時間を「自分のものである生きた時間」にしたいものだと思いました。(なかしまのぶこ・元図書館員)

(東京民報2020年11月15日号より)

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