【アーカイブ連載】妊娠葛藤相談の現場から③金銭的な障壁が〈2021年3月28日号より〉

 「にんしんSOS東京」に寄せられる相談者の声を聴く中で、気付いたことがあります。日本社会には妊娠葛藤を起こしやすい、または葛藤を強める要因が数多く存在している、そして、それら要因が複合的に重なりあった状況下での妊娠は、絶望をも感じるような、計り知れないほどの大きさの困りごとになってしまう、ということです。

 葛藤を強める大きな要因の一つに、避妊・妊娠・出産など、周産期周りの高額な医療費があります。日本には、全ての人が同じ費用で平等に医療が受けられる国民皆保険制度がありますが、避妊や妊婦検診、分娩、入院などで必要な医療費は、「妊娠は疾患ではない」という理由で、医療保険の適用外です。

 具体的な事例をみましょう。例えば、病院での妊娠確定診断には、全額自己負担で1万~1万5千円程度の費用がかかります。妊婦健康審査も医療保険の対象外です。妊娠期の医療費助成はありますが、妊婦健康診査受診券14枚のみで、補助額・受診回数が補助券の範囲を超過する場合は全て自費となります。

 分娩の費用についても、日本の多くの病院では、分娩予約金を病院に預ける必要があり、その金額5万~20万円を予め用意しておく必要があります。出産育児一時金制度があるのでは?と思う方もいらっしゃるでしょう。厚生労働省保険局が集計した東京都の公的病院の出産費用平均値(2019年度速報値)は、53万6884円です。出産育児一時金42万円を上回る場合、超過部分は自己負担となります。

 避妊についても同様に、費用の壁が立ちはだかっています。多くの国では薬局で、入手しやすい価格で購入できる緊急避妊ピル。日本は依然として、処方薬のままであり、しかも保険適用外のため、7千~1万5千円程度ととても高額で、避妊したくてもお金がなければできない状況を生みだしています。

 このように、金銭的な障壁が内包された制度下で、周囲に頼れる大人もいなく、貧困、虐待、暴力など、いくつもの困難を抱え、なんとか生きてきた10代・20代の若年が、自己責任論がはびこる社会の中で、もしも思いがけない妊娠をしてしまったとしたら。その時の葛藤を想像してみてください。筆舌に尽くしがたい絶望や孤立を感じるのではないでしょうか。

 そんな中で、勇気を振り絞って出してくれたSOS。だからこそ私たちは、「相談してくださって、本当にありがとう」とお伝えし、「ここからは、私たちも、あなたと一緒にこれからのことを考えさせてくださいね」と言葉をかけるのです。(特定非営利活動法人ピッコラーレ事務局長 小野晴香)

(東京民報2021年3月28日号より)

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