「東京23区で野菜が採れるの?」―驚きの声が聞こえてきそうですが、東京では「江戸東京野菜」と呼ばれる地場野菜が注目を集めています。23区の学校などでは授業で栽培し、給食などで食べる地産地消と食育の観点も含めた取り組みが展開されています。江戸の町の発展とともに普及し台所を支えてきた江戸東京野菜は、急速な都市化のために農地とともに姿を消したと思われていましたが、今も大地の恵みと歴史を伝えています。
種から育てる学習
高層ビルのイメージが強い新宿区にも江戸東京野菜があります。早稲田みょうがは早稲田大学内で自生していたことが発見されました。また、新宿区原産の江戸東京野菜のひとつである内藤カボチャは区立西新宿小学校での学びで生かされています。
同校では内藤カボチャを、栽培を含めて総合的な学習に位置付けています。5年生が育てているほか、姉妹都市の長野県伊那市に種子を届けて交流。収穫した内藤カボチャは給食や区の施設で活用されます。給食のメニューは児童のアンケートで決定。9日に全校児童と教職員がパウンドケーキにして味わいました。都心で郷土を学ぶ工夫があります。
農産高校が栽培
荒川区原産の三河島菜は一時、絶滅したと思われていました。しかし、宮城県仙台市で芭蕉菜の名で現存することが確認され、東京に里帰りを果たしました。

荒川区に農業耕作地がないために、都立農産高校(葛飾区)が、授業やクラブ活動などで栽培を担っています。収穫された三河島菜は、期間限定で荒川区役所内の食堂で特別メニューとして提供されたり、区の催事などで販売され好評です。
食堂でのメニュー作成は試食から農産高校の生徒も参加。食べやすさなども十分に考慮されています。三河島菜のカレーはテイクアウトも含めて大人気。グリルハンバーグは付け合わせだけでなく、ハンバーグの種に練りこまれている三河島菜がシャキシャキとした歯ごたえを感じさせて、美味しいと定評。メニューは売り切れてしまうこともしばしばです。

農産高校では、三河島菜以外に金町こかぶも1年生が授業で栽培。栽培に手がかかり、均一に出来上がりにくい江戸東京野菜を、市販の農作物より低農薬で手間暇をかけて栽培する中で、食への意識など生きた学習を積み重ねています。
大根尽くしの給食
全国的に名高い練馬大根は、練馬区が原産。区ではJAの協力の下、毎年12月に「練馬大根引っこ抜き大会」を実施し、収穫された大根は翌日以降の学校給食で供されます。

今年の大会は5日に行われ、晴天の中、多くの家族連れが参加し1㍍近くの大根がたくさん収穫されました。大会の当日中に教育委員会の職員も参加し、丁寧に水洗いされた大根は、翌朝に各校の給食調理室に到着し調理されます。
この日、豊玉第二中学校の給食は、大根尽くしメニュー。大根飯、麻婆大根、大根餃子が温かいうちに出されました。大根の青臭さを感じさせないために丁寧に下茹でされるなど、配慮されたメニューに生徒たちは大喜び。

「ちゃんと食べたの?」と全校を見て回る栄養教諭の声掛けに「残さないよー」「美味しい」の声が返ります。中には「大根は先っぽは辛いんだよね」との声に、「正解」と微笑みあう場面もありました。
都市化が進んだ東京23区でも、郷土や地産地消を学ぶ取り組みは関係者の努力の下で続いています。
(東京民報2021年12月26日号より)