前進座は5月に国立劇場で「杜若艶色紫(かきつばたいろもえどぞめ)お六と願哲」を公演します。江戸の歌舞伎作者、鶴屋南北の作品を多く上演してきた前進座にとっても「とっておきの南北作品」といいます。出演する河原崎國太郎(かわらざきくにたろう)さんに聞きました。
前進座5月公演
―どんなお芝居でしょうか。
杜若艶色紫と漢字が並び、どう読むのか、と思われると思います(笑)。杜かきつばた若は5〜6月の季節を表すのと、花の色から江戸紫を連想させ、江戸の芝居だと分かります。この舞台の初演で演じたのが五代目岩井半四郎で、俳名が杜とじゃく若でした。作者の鶴屋南北は、たった5文字のタイトルで、半四郎が江戸芝居として、艶やかで色気のある女方をやりますよ、と表現しているんですね。
今回は「お六と願哲」の副題ですが、願哲は自分の欲だけで生きている破戒坊主です。その悪だくみにのって、見世物小屋の蛇つかいである、お六が悪事を働く。
お六と気の弱い亭主のお守り伝兵衛、お六と願哲がだます傾け いせい城(=遊女)八ツ橋と恋人の佐野次郎佐衛門、さらには伝兵衛の弟の金五郎と恋人の軽業師の小三と、三組の男女の物語が、スリリングに展開していきます。私はお六と八ツ橋の二役を演じます。
―お六のような女性を歌舞伎では「悪婆」と呼ぶそうですね。
お六の悪事は、三十両のお金をつくり、金五郎が小三を身請けできるようにするため。愛する亭主の家族のためで、自分のためではありません。
悪婆に老女の意味はなく、20代から30代くらい。ゆすりやかたりもする〝少し不良のお姉さん〞ですが、自分で物事を決めて切り開いていく、自立した女性です。演じさせて頂いて、気持ちの良い女性です。
南北が描く女性は、芯の強い自分の意志を持った女性が多いですね。江戸時代としてはかなり珍しい女性像ですが、現代に通じるものがあります。
南北作品は、歌舞伎の様式的なセリフ回しをするだけでは駄目なんです。登場人物の生活環境や背景などをリアルに考え、作り上げないと演じられない。それが難しさでもあり、演じていて楽しいところでもあります。