見えてきた社会の矛盾 百年目の共産党追う映画 「百年と希望」を監督 西原孝至 さん〈2022年5月1日・8日合併号〉

 日本の社会問題や政治への疑問を正面から捉え、映像として記録する映画監督の西原孝至氏が、5作目に選んだテーマは日本共産党。7月15日に創立百年を迎える日本共産党を昨年から約1年間追い続けたドキュメンタリー映画「百年と希望」が完成し、6月18日から渋谷ユーロスペースほか、全国で順次公開されます。党の外部から客観的視点で見た日本共産党の姿や撮影を通じて感じたこと、作品について伺いました。

ー前回は本作の撮影中にインタビューをお願いしました。映画が完成し、客観的に見た共産党の印象はどうでしたか。

西原孝至(にしはら・たかし)1983年、富山県生まれ。TV ドキュメンタリーの演出を経て、映画製作を開始。『わたしの自由について~ SEALDs 2015 ~』(16 年)が大きな話題を呼ぶ。TV ドキュメンタリーのディレクターとしても活躍

 私利私欲なく、社会や政治をよくしたいと思っている人が多いと率直に感じました。昨年の衆院選で、政権交代が実現した場合、共産党は限定的な閣外協力で連携する立場を取りました。あくまで外から応援すると。なぜなら、政治や社会の改善が最優先だから。この姿勢はまさに日本共産党を表していると思います。

 真面目が揶揄されがちな時代だからこそ、共産党の誠実さは大切にしてほしい一方で、残念ながら清廉潔白なだけでは勝てないのが政治の世界。与党の良い意味での図太さみたいなものも持ってほしい。もっと柔軟に、したたかに、しなやかに変わっていく必要があると感じます。共産党が躍進しなければ、困るのは市民ですから。

ータイトルはどの段階でひらめたのでしょうか。

 年明けくらいですかね。撮影を重ね、編集していく中で、耳に残ったのが登場人物の言葉に出てくる「希望」という単語。とりわけ若い人が社会に対して希望を持てない状況が続いていることもあり、タイトルにしました。

ー作品自体は党の百年を強調しすぎない構成です。

 あくまで通過点としての百年目だと思っています。通過点として、現在を切り取るかたちの映画にしたかった。共産党の資料映像や歴史をひも解く作品にすることもできたと思うのですが、僕は党の歴史より、党で活動している人たちに興味があります。

 百年後の時代に生きている人が、百年前の共産党はこうだったのかと見てもらえたらいいな。

映画「百年と希望」© ML9

ーナレーションはなくしたのですね。

 最初、ナレーションをつけたバージョンもつくったのですが、話している人の言葉や思いをしっかりと聞き、受け取ってほしいので、映像で伝わるだろうという判断で基本的な情報を明示するだけにしました。

ーインタビューで西原監督も聞き役で登場します。

 撮影される側と撮影する側の関係性が、僕はドキュメンタリーだと思っています。あくまでドキュメンタリーの作り手のひとりが共産党を見たという形を崩したくなかったですし、映画を見ている人と一緒に、共産党を知っていくようなイメージにしたかった。そこで、話を聞いている自分を映像に入れました。

ー昨年の都議選や衆院選の街宣シーンで、与党の街宣の映像も対比的に入ってきます。

 現状を見ると、現与党が支持を多く集めているのは事実。なぜ支持されているのか、僕自身も知りたかった。

 衆院選で、池内さおりさんはジェンダー平等や女性の権利といった人権問題を訴えている。片方で与党は「新しい資本主義」など、経済政策を押し出している。それは党のスタンスで、どちらがよいというわけではない。政党の主張を見てもらった上で、選挙結果も知ってもらい、映画を見てくれた人に何かを感じてもらえるといいですね。

ー党自体のことより、日本のジェンダー観や貧困など、社会問題のほうが強く余韻を残しました。

 日本が抱えている社会問題を、共産党がビビッド(鮮明)に捉え、課題に取り上げているということなのかもしれません。共産党を撮影で追うことで、必然的に日本社会に内在する矛盾がどんどん見えてきた感触がありました。日本社会のゆがみが浮かび上がってくる映画になったのではないでしょうか。

ー試写会での反応はどうですか。

 先日、吉良よし子さんが試写会後に声をかけてくれたのですが、フードバンクに来た親子が自転車で帰っていくシーンに触れ、「あの親子に応えられる政治を、私はできているかと問われているようで胸に迫った」と感想をいただいた。僕もあのカットはこの映画を象徴していると思います。

 例えば、オリンピックだ、経済成長だ、と政府が意気込んでいる一方で、実際に食べ物や学費などに困っている人たちがいる。作中に社会が抱える問題の断片が刻まれているので「このままの社会でいいのでしょうか?」と疑問符で問いかけたいです。

ー映画の公開が6月18日からと、参院選の時期ですね。

 公開日に関して、選挙が終わった秋くらいの案もありました。だけど、日和っている場合じゃないなと。社会に対して大きな疑問符にするなら、選挙前に公開したほうがよいという判断です。

 今、野党がバラバラになっているように見えるので、大きな目的を見失うことなく参院選に挑んでほしいですね。

ー西原監督がドキュメンタリー映画を撮り続ける理由は。

 ドキュメンタリーは僕にとって、思考する一つの手段。その時々の社会問題を、これからも取り上げていきたいと思っています。

百年と希望
6月18 日(土)より、渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
監督・撮影・編集:西原孝至 プロデューサー:増渕愛子 録音・整音:川上拓也 録音:黄永昌 音楽:篠田ミル 製作・配給・宣伝:ML9 配給協力:太秦 © ML9
[2022 年/107 分/ カラー/DCP/ 日本]
100nentokibou.com

〈2022年5月1日・8日合併号より〉

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