【書評】人がファッションに込める意味 『服のはなし 着たり、縫ったり、考えたり』 行司千絵 著

 編み物や縫物が好きな祖母と母に育てられた女の子は、服の好きなおしゃれに敏感な少女になった。

 「まわりの人と同じ格好をしない」と教わったはずなのに「いつしか世間のファッションの枠に自分を押し込めて」いた。

 また百均やファストファッションの低価格は「物の値段に対してタガがはずれ」、気付いた時には手持ちのファッションアイテムは326枚!

岩波書店 2020年
1980円(税込)
ぎょうじ・ちえ
1970年奈良市生まれ。会社勤めをしながら、洋裁を独学で習得

 周りを見渡すと著者ひとりの状況ではない。服は世界に溢れていた!

 日本で1年間に出回る服は2016年で40億着。そのほぼ半分が廃棄されているという。きちんとした統計すらない。イギリスのバーバリーがブランド名を守るため2860万ポンド相当の高級品を焼却処分したという報道もあった。ファッション産業は石油産業に次いで大量のCO2を排出すると言われている。

 新聞記者としての仕事に行き詰まったある日、著者は自分で服を作ろうと思った。香港映画のチャイナドレスに魅せられ、一日かけて完成、さっそく褒められた。それからは休日に自分や母、友人たちの普段着を縫うようになった。20年ほどで290着も作った。それが話題になり個展も開きバイヤーまで現れた。手作りの服が商品化されることにまた大きな戸惑いも芽生えた。

 裁縫道具は人が生きていくうえで大切なものであることも学んだ。冬のツンドラを旅するにはマッチ、ナイフ、釣道具と裁縫道具があればいいという。でも暮らしが便利になるほどその存在は遠のき、町の本屋が消えていったように、手芸店も無くなっている。

 人が服に込める意味を求めて著者の問いは続く。「洋服はアートか、仕事か、道楽か?」

 「それぞれの人のわたしの一着」の章では15年間着ている山極寿一さんのコート、瀬戸内寂聴さんの風呂敷で作ったツーピースなど興味深い。

 途上国の貧しい人たちの労働の上にある低価格ファッションにからめとられている私たち。溢れた服を「断捨離」してゴミ袋に放り込むだけでよいわけではない、と思う。

 著者とともに考え、考えた読書体験でした。

(なかしまのぶこ・元図書館員)

(東京民報2022年2月20日号より)

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