80代の親が自宅に引きこもる50代の子どもを経済的・精神的に支え、疲弊していく〝8050問題〟が社会問題として注目を集めています。行く末を案ずる親に「短期間で更生、社会復帰させる」と、高額な費用を徴収する〝引き出し屋〟と言われる事業者の被害が後を絶ちません。「あけぼのばし自立支援センター」(自立支援センター)と運営元の㈱クリアアンサー(2019年、自己破産)の被害を受けた30代男性に強制入院の不当性を問う裁判について聞きました。
被害男性 違法性認定求め裁判

男性によると2018年5月、自宅から自立支援センターの職員らによって暴力的に連れ出され、そのまま車で新宿区内の施設に移動後に地下部屋に軟禁。のちに精神病院である医療社団法人成仁の成仁病院(足立区)に本人の意思を無視した形で入院させられ、身体拘束などを受けます。施設に戻った後、脱出し弁護団に保護されました。
男性が自立支援センターに損害賠償を求める裁判で、東京地裁(伊藤繁裁判長)は3月25日、慰謝料など110万円の支払いを命じました。判決では▽自宅から無理やり男性を車に押し込め、新宿区内の施設に移送したこと▽8日間、新宿区内の施設の地下部屋に軟禁状態に置いたこと▽自立支援センター(会社)が男性の医療情報を取得したこと―を不法行為と認定しました。
男性は成仁病院を相手に、「強制入院は不当」だとして民事訴訟で争っています。男性は自立支援センター内では「いうことを聞かないと病院に入れる」と思わせる職員の発言があったとして、自立支援センターと成仁病院が連携していた可能性を指摘。男性は「自立支援センター内で職員の指示に従わない場合に懲罰的に入院をさせた」と語ります。
その際は本人の同意が必要とされない〝医療保護入院〟として扱われ、強制的に入院させられたことがカルテによって明らかになっています。
電子カルテに修正の不自然

医療保護入院は精神保健法第33条によって要件が定められています(表)。男性は自身の入院を、精神保健指定医の指示ではなく、担当医の入院指示であり、法に反し社会的に許されないと訴えます。病院は「指定医は同席し、指示していた」と主張し、争いになっています。
電子カルテの入力情報によると指定医の診察記録が指定医の管理番号ではなく、診察を行った担当医の番号になっていましたが、後に修正されるなどの不自然な状況があると男性は主張します。
さらに裁判で「自立支援センターと病院が密に連携して、利用者の人権侵害が行われていた。自立支援センターの裁判では自分の医療情報が成仁病院からセンターに提供されたことが違法行為とされた。正しい司法判断を期待します」と語りました。
適切な判断か疑問
裁判所に意見書を提出した 竹内真弓医師
電子カルテは改ざんが出来ないようにパスワードがかけてあります。そのまま忘れて放置したなどということがないように、相互に注意声掛けなど職員へも教育をするなど管理者は留意しているものです。
また、強い人権侵害を行うという重要な決定にあたる医療保護入院には、患者の状態に対する記述はその決定を行うにふさわしい根拠となる症状が記されるべきです。本来は時系列に処置や状態がわかるように記すのが望ましいです。医療保護入院の判断が適切に行われたのか疑問が残り、精神保健福祉法19条4の2の義務が果たされたとは評価しがたいと感じました。(代々木病院精神科科長)
〈2022年5月22日号より〉