安倍・菅政権の7年8カ月は「知性と倫理性を著しく欠いた首相が長期に政権にあったせいで、国力が著しく衰微した時代」だと内田樹氏は言っています。日本の政治・経済の現状を思うたび深刻な危機感を感じ暗たんとした気持ちに落ち込む中で希望が持てる本に出合いました。

各1980円(税込)
るとがー・ぶれぐまん 1988年生まれ。歴史学者、オランダのメディア「デ・コレスポンデント」のジャーナリスト
2020年にオランダとアメリカで刊行、発売直後から「人間の本質に迫る大作」「希望の書」として話題になりベストセラーになった本です。作者はオランダ出身の若い歴史家・ジャーナリスト、この本で世界的論客に仲間入りしています。
本書は「人類の性質は、悪なのか、善なのか?」と問いかけ「ほとんどの人は善良である」と結論します。作者は独自取材により従来の心理学の定説を覆します。そして人類史、思想史、資本主義まで幅広い領域の考察を行ったうえで上記の結論にいたります。実証的に具体的事例をいくつもあげています。刑務所、警察、社会保障制度、学校教育、在宅ケア組織等を綿密に調査しています。戦場においてすら多くの兵士はその善良さから戦闘に参加していないことを明らかにしています。
この世の中は「万人の万人に対する闘争」であるとして、人間の本質にかんする暗い見方を西洋思想に浸透させた人たちは多い。それはなぜだろうと、歴史の進化論と心理学の観点から解き明かしていきます。
「ほとんどの人は利己的で強欲だという考えは、他の人はそう考えているはずだという仮定から生まれたのではないか」と「多元的無知の一形態」として考えることができると結論します。そして、「私たちが大半の人は親切で寛大だと考えるようになれば、全てが変わるはずだ」と。
思うのは日本国憲法の前文です。「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」―これこそ性善説にたった精神です。(松原定雄・ライター)
(東京民報2022年2月20日号より)