街角の小さな旅27 世界の海と物語に思いをはせる マリンサイエンスミュージアムと運河の風景(2022年11月6日号) 

保存展示されている雲鷹丸

 東京海洋大学マリンサイエンスミュージアムは、品川駅港南口から高浜運河を越えた先、東京海洋大学品川キャンパスの構内にあります。

 キャンパスで初めに迎えてくれるのが「鯨ギャラリー」。クジラ類は陸上の哺乳類を祖先にもつ海に住む哺乳類。ギャラリーには体長17・1㍍もある世界最大級のセミクジラの全身骨格標本が展示されていてその大きさに圧倒されます。もう一つの全身骨格標本は宮城県女川沖で捕獲された体長12・79㍍のコククジラ。

 「マリンサイエンスミュージアム」は120年前の1902年に農商務省水産講習所に設置された標本室に起源をもつ施設で、同大学の歴代の練習船の模型や練習船が採取した海鳥やウミガメ類、魚類などの海の生き物の標本や剥製、漁業で実際に使われていた漁具などが展示されています。

マリンサイエンスミュージアムの入り口

 展示ホールに入ると初めに東京海洋大学の2代目の練習船、雲鷹丸うんようまるの大型模型が展示されています。雲鷹丸は1909年に漁業練習と漁業調査を目的に建造された米国式遠洋捕鯨船バーク型の3本マストの帆船。捕鯨実習や漁業調査、学生実習、カムチャッカの漁場の開拓とカニ工船事業の開発で活躍。船上でのカニ缶詰製造を初めて行い大型蟹工船の先駆けとなった船です。

 また、ペンギン、ウミイグアナ、ガラパゴスアシカなどの剥製は、南極調査にあたった南極観測船「宗谷」に随伴した海鷹丸Ⅱ世が、南極海とガラパゴス群島の調査で採取したものです。

 このミュージアムは一定のストーリーに沿って誘導される展示と違い、間近に見るペンギンの剥製や巨大なタカアシガニ、国内では見かけることのない大きなエビの標本など、それぞれがそれぞれの物語を語りかけてくれ、ワクワクする時空間を体験することができました。

 ミュージアムの前にはノルウェー式捕鯨砲、キャンパスの裏門近くには、国の登録有形文化財に指定されている雲鷹丸が保存展示されており、世界の海をはせた姿を思い浮かばせてくれます。

運河を歩く

 キャンパスの裏門から高浜運河に出て、運河沿いの遊歩道から橋を渡って天王洲。天王洲は江戸末期に黒船来襲を受けて砲台(お台場)の建設が行われたところで、その後、近代化の過程で京浜工業地帯の一角として倉庫が立ち並んだ場所です。戦後、物流のシステムの変遷をうけ倉庫業が衰退。その生き残り策として倉庫を活用した文化の発信とウオーターフロントのにぎわい化が取り組まれ今日に至っています。

天王洲運河とボードウオーク

 かつて運河は倉庫の壁が並ぶ殺風景な場所でしたが、いまは、運河沿いにボードウオーク(水辺広場)がつくられ、いくつものミュージアムやおしゃれなお店、カフェなどでにぎわう場所となっています。

 その一角にある「WHAT MUSEUM」は建築模型を「展示しながら保存する」をコンセプトにした建築模型専門展示・保存施設につくられたミュージアム。

 「さわれる!建築模型展」では、東日本大震災で津波に襲われた気仙沼の大島の被災前のまちを復元した「『失われた街』模型復元プロジェクト 大島・長崎・小田の浜」模型を展示。

WHAT MUSEUM

 また、「模型保管庫展」では倉庫が保管している、建築家が建築設計の創造過程で作成した縮尺模型を展示しており、いずれもユニークな視点からの展示会で未体験の世界に誘われます。

 あわせて個人収集による草間彌生など現代絵画の作家の作品展も開催されています。(いずれも11月13日まで、詳細はホームページで)

 天王洲運河を渡って進むと江戸期に品川宿のあった旧東海道に出ます。京から下ってきた旅人はここで旅の埃りを落として江戸に入り、京に上る旅人はここで見送りの人とお別れをした場所です。

末延渥史

〈東京民報2022年11月6日号より〉

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