【書評】鑑賞の心、障害者観が変わる 『目の見えない白鳥さんとアートを見に行く』 川内有緒 著

 著者は友人のマイティから「白鳥さんと見ると楽しい」と誘われ、視覚障害者の白鳥さん(白鳥建二)と絵画、仏像、現代美術など、アートを巡る旅に出かけます。

 本のタイトルを見て、「目の見えないひとが美術作品を見るとはどういうことなのか」と興味をひかれ読みだしました。

集英社インターナショナル 2021年
2100円+税
かわうち・ありお 1972年生まれ。ノンフィクション作家。『空をゆく巨人』で開高健ノンフィクション賞。本書で2022年ノンフィクション本大賞

 アート作品を触るわけにはいきません。目の見える人が言葉でどういうアートなのかを声で説明します。それはアートの解説でなく、見たままを表現することでした。白鳥さんは「耳」で見るのです。

 最初に見たのは「色彩の魔術師」という異名をもつボナールの絵でした。「ひとりの女性が犬を抱いて座っている」「犬の後頭部をやたらと見ています」。

 マイティは「この女性はなにも見ていないように見えるな」―絵の感じ方は人によって違います。その感想を白鳥さんは面白そうに聞いています。

 「セーターの色がすごくきれい」「朱色に近い」―白鳥さんは生まれつき極度の弱視で、色を見た記憶はありません。色そのものはわからなくても、色には特定のイメージがあり、それを楽しんでいるのです。

 白鳥さんとアートを見ることで一つの作品をじっくり見ることになり、著者自身のアート眼が豊かになります。白鳥さんに教えるのでなく、教えられているのです。

 著者は「普段は見えないもの、一瞬で消えゆくものを多く発見」し、鑑賞の奥深さ、障害者にたいする偏見、人生について気づかされます。

 目の見える人たち同士でも感じ方は違いますが、白鳥さんの感じ方も著者たちとは違うのです。違いがあっても一緒に見ていること、「笑っている」ことが白鳥さんにとっては大切なのです。

 本書を読み、アートに対する新しい楽しみ方と、私自身の中にある「障害者は気の毒」という障害者観の間違いに気づかされました。この本を読むと美術館の魅力がよくわかり、アート鑑賞に行きたくなります。(柏木新・話芸史研究家)

〈東京民報2023年1月22日号から〉

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