【書評】歴史の上に託された希望 『てぶくろ ウクライナ民話』 エウゲーニー・M・ラチョフ 絵 うちだりさこ 訳

 「おじいさんが もりをあるいていきました。こいぬが あとからついていきました。おじいさんはあるいているうちに、 てぶくろを かたほうおとして、そのままいってしまいました」

 絵本『てぶくろ』はウクライナの民話です。そのてぶくろに、ねずみがかけてきて、てぶくろにもぐりこんでいいます。「ここでくらすことにするわ」そして、次々に動物たちがやってきます。

福音館書店 2017年
1100円(税込)
エウゲーニー・M・ラチョフ 1906年生まれ。バラビンスカヤ草原の大自然で育つ。主な作品に『マーシャとくま』、『麦の穂』など。1997年没。

 「だれ?てぶくろにすんでいるのは?」

 「くいしんぼうねずみよ。あなたは?」「ぴょんぴょんがえるよ。わたしもいれて」「どうぞ」

 こんな言葉をくりかえしながら、はやあしうさぎやおしゃれぎつね、はいいろおおかみ、きばもちいのしし、最後は「のっそりぐまだ わたしもいれてくれ」と熊までもがやってきます。「とんでもない まんいんです」「いやどうしてもはいるよ」「しかたがない でもほんのはじっこにしてくださいよ」と受け入れます。

 ページをめくるごとにどんどん動物たちが入り込む手袋に違和感も覚えず、ものがたりを楽しめるところがこの絵本の魔法でしょうか。それを可能にするのがディテールのリアルさ緻密さでしょう。大きな茶色の皮の手袋、そして動物たちのそれぞれの衣装が見事で、昔のウクライナの人たちはこんなドレスやコートを着ていたのかなと想像もふくらみます。また、動物たちのリズミカルな会話も楽しい。

 作者のラチョフは14歳までシベリアの祖母のもとで暮らしました。広大な草原地帯に囲まれた狩猟地で、野生動物や鳥たち動物たちと親しんだということです。自然や動物の世界、ウクライナやロシアの民話などを多くの作品にしています。

 ロシアのウクライナ侵攻が始まりはや10カ月。過酷な冬が訪れました。この絵本の動物たちのように「もう、まんいんです。ほんのはじっこにしてくださいよ」と言われつつ「よいしょ」と入り込み、受け入れるおおらかさは「さまざまな国によって支配され、分割された歴史」の上に託された希望なのでしょうか。

 日本初版は1965年、2017年版は161刷です。(なかしまのぶこ・元図書館員)

〈2022年12月18日号から〉

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