「本当の共生社会とは」映画製作会見『わたしのかあさん』〈2023年10月22日・29日合併号〉
- 2023/10/28
- 文化・芸術・暮らし
福祉や女性解放をテーマにした劇映画を通して日本の政治や社会、平和について問題を提起してきた山田火砂子監督(91)。10作目となる劇映画「わたしのかあさん」を、日本最高齢の女性映画監督としてクランクインします。10月10日、中央区内で製作発表の記者会見を開き、映画にかける思いを、山田監督のもとで2度目の主演となる寺島しのぶさん(50)とともに語りました。
同作は1989年の児童福祉文化賞を受賞した「わたしの母さん」(菊地澄子作)が原作で、母が知的障害者であることに葛藤し、それを乗り越え成長する娘の姿を描きます。
寺島さんは知的障害のある母親、清子役を演じます。成長後の娘、高子役には常盤貴子、父親役に渡辺いっけい、高子の親友・優子の父で清子の主治医を船越英一郎が演じます。ほかにも高島礼子、東ちづる、春風亭昇太、山田邦子、安達祐実ら豪華俳優陣がそろいます。
自身も知的障害の子を持つ山田監督。「障害者施設で殺傷事件が起こり、本当の共生社会とは何なのか、これをテーマにした映画を撮りたいと思っていた」と明かし、「母親役は絶対に寺島さんにお願いしたいと思いました」と語りました。
寺島さんは「またご一緒できることを本当にうれしく思います。脚本を読んだら監督の情熱があふれていました。監督にまた呼ばれたら断る理由はないぐらい、人生の先輩が話してくれること全部が私の宝物になるんです」とにっこり。
社会にもの申す監督かっこいい
山田監督は作品に込めたメッセージについて「共生社会、共に生きること」を強調。これまで福祉をテーマにした作品を多く手がけ、そこから見える日本の福祉の遅れを告発してきました。今回の作品も「国は子どもを増やしたいと言うなら、もっと国民によくしなければ、という願いを込めました」と言います。
日本は子育てや教育に多額のお金が必要で、多くの大学生は借金(有利子の奨学金)を背負って卒業していると、欧州の国々と比べて貧しい教育予算に言及。「私は鉄砲の弾を作るより、人にやさしい政治にお金を使ってほしい」と語りました。
寺島さんは山田監督のもとで初主演を演じた「母 小林多喜二の母の物語」(2017年)に触れ、「『武器をつくる政治より、福祉を助けてください』という、監督が今思っていることに踏み込んでいる。社会にもの申している監督はかっこいい」と共感します。
山田監督は女性解放や平和をテーマにした作品も世に送り出しています。「女性解放の映画を作ったのは女性に立ち上がってもらいたいから。危ないですよ日本は。それが心配です。女性が立ち上がれば平和な日本でいけます」と、持論を展開。「寺島さんは歌舞伎という男社会に飛び込んで、歌舞伎の中に男女平等をつくり出していく先駆者。尊敬します」とも。
女性では異例の歌舞伎座の舞台を踏んだ寺島さんは、「(女の)私にだってできるんだという思いで50年生きてきて、やっと男性の中に女性が一人入る現実を毎日過ごしています。これからも図太く生きていきたい」と、今の心境を明かしました。
清子のようなおかあさんに
知的障害のある女性を演じるのは初めてという寺島さん。難役の役作りについては、「障害のある娘さんを育てる監督がいるので心配していない」と楽観の様子。子どものころに経験した障害児との交流に触れ、「健常者でも障害者でも、お互いに足りないところを助け合いながら生きていくのは同じ。同じお母さんから生まれても、いろんな人がいることを(映画を通して)知ってもらい、いっしょに考えることができれば、社会がまた一つ発展するのではないか」と語りました。
「子どもに親にしてもらっている」と語る寺島さんは、子育て真っ最中。「(映画の中の)母と娘の関係性は無償の愛。障害のある母を恥ずかしいと思っていた娘が、だんだん受け入れていく過程がすばらしい。自分が母親なので、それを使わない手はない。子ども2人を愛し抜いて、いつもニコニコ笑っている(清子のような)お母さんでいたい。でも現実はいつも目をつりあげて子どもをしかっている」と語り、笑いを誘いました。
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映画は来年2月に完成予定。披露試写会を2月2日(金)なかのZEROホール小ホール、3月8日(金)ルネこだいら中ホールで予定しています。前売券(制作協力券)のみの販売。詳しくは「現代ぷろだくしょん」公式ホームページ。
あらすじ
知的障害者の両親のもとに生まれた高子。一時は周囲と違う両親を恥じ、大嫌いとなります。しかし、両親や障害児学級の子ども達と向き合い、高子は成長していきます。時は流れ、高子は障害者施設の園長になっていました。高子は、ある日、講演を依頼されます。
東京民報2023年10月22日・29日合併号より