大田区と東京都が進める新空港線(蒲蒲線)計画をめぐって、区民らが着工見合わせを求めて「署名をすすめる会」を結成し、運動を広げています。計画は、東急多摩川線を延伸して、京急空港線に乗り入れようというもの(図)で、巨額の費用がかかります。さまざまな疑問が残る計画に、住民は「暮らしが大変な時に、区はお金をもっと違う分野に使うべきでは」と声をあげています。
住民の会が署名活動
「800メートルの路線のために、1360億円もの費用がかかる。しかも、現状では羽田空港にも直接つながりません」
地域の生活の足として親しまれる東急池上線の千鳥町駅前。14日夕方に、買い物客や親子連れなどが行きかうなか「署名をすすめる会」のメンバーの声が響きました。
会が、昨年10月から、大田区内にある38の鉄道駅をすべてまわろうと続ける「全駅じゅんぐり署名宣伝」で、今回の石川町駅で25駅目です。
石川町駅近くに住む、会事務局の馬場良彰さんは、「区民にとっては、かえって乗り換えなどに時間がかかり、不便になる可能性もある。そんな計画に巨額の費用をかける必要があるのか」と訴えました。
ふくらむ費用
蒲蒲線は、JR蒲田駅と京急蒲田駅が800メートルほど離れていることから、両駅を結ぼうという計画。さまざまな構想が、40年来にわたって取りざたされてきました。
大田区は、この間、東急多摩川線を延伸することで、JR蒲田駅と京急蒲田駅を地下で結び、さらに京急空港線に乗り入れて羽田空港までを結ぶ構想を計画し、2022年に第三セクターの「羽田エアポートライン株式会社」(HAL)を設立しました。
費用は当初、羽田空港に直通するすべての路線の合計で1080億円と説明されていました。それがすでに、多摩川線の矢口渡駅から京急蒲田駅までの第一期工事だけで、1360億円(そのうち大田区負担363億円)にふくらんでいます。
疑問1
空港につながる?
計画には、数々の疑問点が指摘されています。その一つが、羽田空港まで本当に路線がつながるのかです。
京急と東急は、線路の幅が異なるため、通常の車両では、相互乗り入れできません。
国の交通政策審議会も、2016年の「答申第198号」で、新空港線については、京急蒲田駅から空港線への乗り入れに「軌間(線路の幅)が異なる路線間の接続方法等の課題がある」と指摘しています。
このため区は、工事を2つに分け、1期では技術的な課題が指摘されなかったJR蒲田駅から京急蒲田駅までを、2期で京急蒲田駅から空港線への接続を、それぞれ整備する方針を立てました。
これに対し、日本共産党の前区議、黒沼良光さんは、「2期の工事が技術的に可能になるのか、不明なのに1期工事を進めるのはあまりにも無謀です。1期工事だけで採算が取れる見通しもない」と指摘します。
区は1期工事によって、渋谷駅などから京急蒲田駅まで直通になることで、そこから空港線に乗り換えて、羽田空港に向かう利用を見込んでいます。
ただ、新空港線の駅は京急蒲田駅の真下ではなく、徒歩移動が必要です。黒沼さんは、「重い荷物を持った空港利用客が、徒歩で移動が必要な乗り換えを選ぶのか。別の路線が選ばれ、利用が伸びない可能性もある」と懸念します。
疑問2
利便性は向上?
区民の利便性向上につながるのかにも疑問が上がっています。
JRと京急の蒲田駅は徒歩で15分弱の距離。これが2分ほどで移動できるようになると区はアピールします。
しかし、これは電車に乗っている時間です。馬場さんは、「例えば池上線の利用者が、地下にある新空港線の駅に乗り換えようと思ったら、区の公式発表でも5分20秒かかります。実際は、6~7分かかるでしょう。さらに電車の待ち時間が数分かかる。京急蒲田駅の地下の駅に2分で着いても、地上の駅に乗り換えるのに、区の発表で6分20秒かかります。実際は、徒歩での移動よりも、むしろ時間がかかる」と指摘します。
池上線や多摩川線は、通勤通学など、生活の足として親しまれている路線です。そこに新空港線の急行が入ってくることで、ダイヤが過密になり、各駅停車の便の間隔が開いて、通勤・通学客は、待ち時間が増える可能性もあります。
疑問3
採算見通しは?
さらに、大きな問題は、将来的に採算が見通せるのか、です。
JR東日本は、すでに田町駅から羽田空港を結ぶ空港アクセス線(東山手ルート)の整備に着手しており、2031年度には開業予定です。羽田空港に移動する乗客のかなりの部分が、空港アクセス線に奪われるとみられています。
利用が伸びなければ、第三セクターの赤字を、区が補てんすることになるのでは、という心配の声も出ています。
国への聞き取りも
「署名をすすめる会」は、こうしたさまざまな疑問に区がこたえていないなかで、計画自体には賛成の人も含めて、第一期工事の着工は見合わせるよう求める署名を広げています。
14日には、立憲民主党の津田ともき区議を通じて、同党都連の紹介で、国交省の担当者からの聞き取りを行いました。
国交省側は計画の現状を、「事業者からの申請が出されたら、採算性や運営能力などを審査する。それ以上は、進んでいない」と説明しました。
聞き取りに同席した黒沼さんは、「区は国の審議会の答申198号で評価を得たとしているが、国は申請を待っている状態で、実情を把握していないことがはっきりした」と指摘。また、「JRの空港アクセス線ができることによる採算面などへの影響は、今後の審査で加味して評価するとの答えがあった点も重要だった。区は無謀な計画の抜本的な再考に取り組むべきです」と強調します。
東京民報2024年2月25日号より