SE経歴 詐称強要は違法な業務命令 東京地裁 企業代表者に賠償命じる〈2024年7月28日号〉

 「未経験からITエンジニアに」「月給30万円」などの求人募集で採用され、数十万円ものプログラミングスクール受講料を取りながら、必要な技術を教えず、経歴詐称をして現場に送り込まれる詐欺に加担させられたとして、被害者3人が複数のSES(システムエンジニアリングサービス)企業を運営する代表者2人に損害賠償を求めた訴訟の判決が19日、東京地方裁判所でありました。一場康宏裁判長は、「被告らの事業内容は、取引先に対する詐欺行為により利益を得ようとするもの」と断じ、総額500万円以上の支払を命じました。

会見する(左から)中川勝之弁護士と尾林、伊久間の各氏=19日、千代田区

 原告の3氏はいずれも2021年に、大手求人サイトに掲載された広告などを見て、被告2人らが運営する会社に入社しました。

 このうち二人は、入社内定と同時にプログラミングスクールの受講を促され、一人は60万円、もう一人は48万円を支払ったといいます。しかし、スクールで教えられたのは、“業界の慣例”などとして、「スキルシート」と呼ばれるエンジニアとしての実務経験を記した書類を偽装する方法や、経歴を詐称しての取引先への営業活動の準備をするためのものでした。原告らは会社側には、SEとしての技術を教える体制自体がなかったと告発しています。

 原告らは、必要なスキルも身につけないまま、虚偽の実務経験をもとに、システム開発の現場に送り込まれました。業務に対応できないため、上司や同僚のスタッフから、叱責を受けたり、嫌がらせをされるなどして、大きな精神的な苦痛を受け、退職せざるを得ませんでした。

 判決は、被告らによる業務命令について「経歴詐称により従業員を派遣することを目的とした詐欺行為またはその準備行為の実施を命じたもの」と指摘。「原告らに対し、業務上の命令として、詐欺行為の一部を担うよう命じた」もので「違法な業務命令」と断罪しました。

 そのうえで入学させられたスクールの費用や、原告が得られるはずだった利益、慰謝料などの支払いを命じました。

弱い立場を利用

 原告らが加入する労働組合・首都圏青年ユニオンの尾林哲矢事務局長は、「提訴に至ったのは3人だが、相談があった被害者は10人以上いる。その人たちから聞いた同僚の数などを推定すると、少なくとも50人以上が、被告らが運営した複数の企業で、同様の被害に遭っている」と指摘。「前の会社を辞めて就職するなど、弱い立場にある労働者に業務命令で違法な行為をやらせていたと判決が断じたことが重要だ」と話しました。また、これらの求人が大手の求人サイトに掲載されていたことについて、対策を求めました。

 担当した伊久間勇星弁護士は、SE業界が恒常的な人材不足のなか、「SES企業は、より単価の高い企業に人材を派遣することで、より高い報酬を得られる。そのことが、経歴詐称を生みやすい構造の背景にある」と指摘。判決は「経歴詐称をさせること自体の違法性を明確に認定した」と語りました。

 原告の男性(30歳代)は、「(被告らは)悪評が立つたびに次々と新しい会社をつくっており、悪質な行為をさせられる会社だと、入社後に気づいた。同じような被害を今後、生みたくない」として、被害を受けた人の労働組合への相談を呼びかけました。

 首都圏青年ユニオンでは、SEやプログラマーのための、実態告発・労働相談フォームを開設しています

東京民報2024年7月28日号より

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