練馬区の西武池袋線石神井公園駅南口で進む再開発事業をめぐり、地権者と地域住民11人が東京都に対し、再開発事業組合設立認可の取り消しを求める「第2次石神井まちづくり訴訟」で、東京地裁(品田幸男裁判長)は7月29日、原告の請求を退ける判決を言い渡しました。
同再開発事業は、石神井公園駅南口前に、高さ約100メートルの超高層ビルなどを建てる計画。同地区には区が2011年に策定した「景観計画」があり、住民と自治体が10年近く議論を重ね、12年に「地区計画」を決定。石神井公園から駅に向かう景観を守るため、建物の高さを35メートル(例外で50メートル)以下に抑えるルールがありました。
地区計画が制定された約2年後、再開発の計画が浮上。区は住民に対する十分な説明がないまま計画を変更し、高さ制限を緩和・撤廃しました。
原告は2022年8月に提訴。主に▽地区計画を変更すべき理由がなく、高さ規定撤廃の必然性がない▽景観計画が定める景観形成基準に反するーの2点を、法廷で争ってきました。
裁判中も再開発事業は急速に進み、再開発組合に土地明け渡しの請求を迫られていた地権者が、執行停止を申し立て。東京地裁(同裁判長)は3月13日、「申立人が被る被害は、重大なものと評価すべき」など、地権者に理解を示し、執行停止を認める異例の決定を出しました。
その後、再開発組合側が即時抗告。東京高裁(増田稔裁判長)は5月9日、土地明け渡しの執行停止を取り消しました。
執行停止から後退
同日開かれた報告集会で、原告訴訟代理人の尾谷恒治弁護士は、冒頭で「執行停止を認めた決定から、大きく後退する内容」だと批判。東京地裁が執行停止を認めた時点では、地区計画の決定における住民合意の重要性にも触れていましたが、「まったく踏襲されていない」と憤りました。
判決では、区が高さ制限を撤廃したことについて、「(練馬区は)変更前地区計画が高さ限度50㍍にした理由や、建築物の最高限度に係る制限を緩和しなければ、再開発事業ができないのかを考慮すべきであったとはいえない」「建築物の高さ制限が、土地の高度利用や建物共同化の障害になっているのかという検討をすれば足りる」と判断。つまり、「考慮要素ではない」と判じています。
福田健治弁護士は、「50メートルの高さで事業が成り立つのか、区は正面から答えない態度を貫いてきた」と指摘。「明らかにされないまま、一定の根拠があると裁判所は評価している」ことに疑問を呈しました。
景観形成基準との整合性については、すでに2棟の高層マンションが建っており、「石神井公園からの眺望の中で突出しているとまではいえず、景観形成基準に反しない」としています。
その後の記者会見で、尾谷弁護士は「この判決が許されるのであれば、事業者は住民合意の努力をしなくなる」と危惧。地権者の岩田紀子氏は、「約90年間守ってきた土地も建物も、すべて奪われる。住民参加の話し合い、合意形成は大事。ないがしろにしてよいのか」と不安を語りました。
原告の中田嘉種氏は、「石神井公園は都内で神宮外苑に続き、風致地区に指定された。特色ある歴史的風土、自然環境などを住民が守ろうとしても、裁判所が認めないのであれば保全活動は厳しい」と、悔しさをにじませました。
原告は控訴する構えです。
東京民報2024年8月11・18日合併号より