【今月の本棚と話題】 集団的リーダーシップ確立を 『トランプの貿易戦争はなぜ失敗するのか それでも保護主義は常態化する』 リチャード・ボールドウィン 著/伊東元重 監訳/笹田もと子 訳〈2025年11月23日号〉

 貿易相手国に高関税を課した「トランプ関税」は世界経済に混乱と不確実性を引き起こした。緩和されたとはいえ米中間の対立や、米国内での訴訟など火種はくすぶっている。トランプ関税の背景を分析し自由貿易体制維持への提言をまとめたタイムリーな書である。

日本経済新聞出版、2025年
3080円(税込)
著者はスイス・IMDビジネススクール教授、ブッシュ(父)政権で大統領経済諮問委員会(CEA)シニア・エコノミスト

 著者はトランプ大統領の措置が「世界貿易体制のハッキング」であり、システム管理者が突然ハッカーになったと例えながら、短期決戦による「貿易戦争」で解決を狙ったと解説する。米国は世界貿易機関(WTO)の条項に違反し、自らが推進してきた国際法や通商取り決めを否定した。国際ルールを無視して保護主義に転じた背景は何か。著者は、大統領が国内製造業の空洞化の原因を相手国の「不公正な貿易慣行」にあるとみなしており、支持基盤の中間層の不満を解消するための政治的な動機を挙げた。政策を突き動かしているのは戦略的な計算ではなく被害者意識であり、「不満ドクトリン」による米国の伝統的な保守主義は常態化しているとみる。

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