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シリーズ 外環道を問う@

4兆円の投資と巨大な環境破壊

 国と都は、都民の反対で着工できなかった関越道と東名高速を結ぶ練馬─世田谷間の外環道(東京外郭環状道路)の建設計画をオリンピック招致にかこつけて一気に推進しようとしています。地下に16`bを通す計画で1b1億円、総額1兆6千億円。さらにその地上部に6千億円余の「外環の2」といわれる都道の建設や計画決定もされていない東名高速以南も1兆9千億円かけて建設を進めようとしています。合わせて4兆円を超える巨額の投資になるうえに、住宅の立ち退きや、稀少緑地の破壊、地下水脈切断などの巨大な環境破壊をともないます。「浪費と多大の犠牲を強いるこんな道路計画を許していいのか」と外環道建設計画の根本を問う声が強まっています。外環道問題をシリーズで追います。

30年以上凍結された計画が

 国土交通省は昨年12月25日、国幹会議(国土開発幹線自動車道建設会議)を開き、外環道建設計画の練馬─世田谷間の基本計画を承認しました。この区間16`bは、練馬区、杉並区、武蔵野市、三鷹市、調布市、狛江市、世田谷区と7区市にまたがり、建設が始まれば、住民の生活や環境にきわめて大きな影響があります。
 しかし、国と都は今後、大深度地下トンネル方式(※)による整備計画をまとめ、早期着工を目指しています。石原慎太郎知事は9月18日の所信表明で、「2009年度事業着手などを国に強く求めています」と表明しました。
 都議会の自民、民主、公明三党も建設推進の発言を繰り返し、三党で構成する都議会外かく環状道路建設促進議員連盟は昨年12月、早期着工を国に求める声明を出しています。
 もともとこの区間の建設計画は1966年、高架方式で都市計画決定されたものです。しかし、住民の強い反対運動で、4年後の1970年、根本龍太郎建設相(当時)が凍結を宣言。以来、30年以上にわたって凍結されてきたいわくつきの計画です。
 ところが、石原知事が1999年10月、建設予定地を視察、反対住民の抗議を受けながらも、計画推進の意欲を示したことによって状況が変わりました。
 2001年、石原知事の要請で扇国土交通相(当時)が現地を視察したことによって建設計画が動き始めました。翌年6月から「計画の構想段階から幅広く意見を聞く」と、国と東京都、関係自治体と住民によるPI(パブリック・インボルブメント)という沿線協議会がつくられました。PIは国と都の主導で進められましたが、同時に住民から反対意見や疑問の声が出され、関係区長や市長からも異論が出されています。それが、どう反映されるのか、関係住民にとって重大な問題です。
 外環道の基本計画を決定した重要な国幹会議では、こうした住民の意見が紹介され、審議されたのか。
 今年2月の衆院予算委員会で日本共産党の笠井亮議員がこの点を追及しています。
 「出された賛成、反対の意見、慎重意見、これについて、国幹会議で承認を受ける時にその中身を報告しましたか、資料を出しましたか」と質問。結局、重要な決定段階で、わずか50分の審議で、住民の意見は議論の対象にもならず、資料さえも提出されていないことが明らかになりました。PIがこれでは、「住民の意見を聞く」というだけのアリバイづくりにほかならないことが浮き彫りになりました。

3000棟立ち退き

 外環道建設計画のもう一つの重大問題は、外環地下トンネルの上部に計画されている地上道路(練馬・目白通り―世田谷・東八通り)です。
  石原知事は、外環道を早く完成するために、地下化を強調してきました。ところが住民がテーブルに着き、地下化を前提に話し合いが進んだ05年1月、地上部の道路計画(「外環の2」=左図参照)を持ち出してきました。
  地下化するから立ち退きはないかのように説明されていたために、住民から「これではだまし撃ちだ」と大きな問題になっています。
  地上部の道路計画については、外環道本体の問題ともに日本共産党都議団が繰り返し追及し、問題点を明らかにしてきました。地上部道路は杉並、武蔵野、三鷹など住宅密集地を抜けることから、3000棟もの立ち退きが予想されるともいわれ、事業費は推定6000億円に上ることなどから財政負担と住環境破壊は大変なものになるからです。
  石原都政と「オール与党」がオリンピックを口実に建設を推進しているのは、それにとどまりません。高尾山をトンネルでぶちぬく圏央道や首都高速中央環状品川線、さらには、横田基地と都心を結ぶ高速道路・多摩新宿線などがあります。共産党の吉田信夫幹事長は06年3月の予算特別委員会の質問で、これらの計画の事業費が6兆円(外環東名以南を除く)近くにもなることを示し、「東京都の負担は底知れないものになる。いったいどこにそんな財政的な力があるといえるのか」と指摘。東京の中小企業対策予算は毎年連続して後退、最高時の半分以下になっていることを挙げ、計画中止を求めました。

渋滞解消というが

 国交省は「都心部の慢性的な渋滞や沿道環境の悪化等を大幅に改善する」と説明しています。では、本当に渋滞解消になるのでしょうか。
 東京都がオリンピック招致に合わせて2006年12月に編集発行した「10年後の東京」と題したパンフレットがあります。それによると、2015年には、首都高中央環状線の整備率は100%、圏央道の整備率も100%としているのにたいし外環道の東京部分は未整備と予側。それでも、「主要渋滞ポイント600カ所がおおむね解消」し、東京の道路は「毎日がお盆や正月並みにスイスイ快適ドライブが実現」すると明記しています。
 「外環道ができていなくとも、600カ所で渋滞が解消され、快適なドライブが実現するという状況なら、外環道はいらないではないか」。笠井亮衆院議員は07年2月の衆院予算委員会分科会で国土交通省を追及、松村友昭都議が都議会総務委員会で同年11月、都側に同様の質問をぶつけています。都も国も渋滞解消を事業目的にあげながら、その見通しのいいかげんさが暴露されています。
 笠井議員と共産党都議団はさらに、東京の中心部で広範に進められているビル再開発によって一日の集中・発生交通量が24万台と予測され、3環状道路をつくっても交通量が減るどころか差し引き14万台も増えることを指摘。「一方では、渋滞解消と言いながら、他方では交通量を増やして渋滞を巻き起こすような施策を進めている」と批判し、渋滞解消の目的にごまかしがあることを明らかにしています。

地球温暖化対策に逆行

 環境アセスメント問題都民連絡会の藤田敏夫代表幹事ら4氏は、外環道の「環境影響評価準備書にたいする意見書」を国と都に提出しています。このなかで、外環道の自動車から排出される温暖化ガス(CO2)について調べ、「東京都が進めている地球温暖化対策に逆行するものだ」と警告しています。
 それによると外環道は、1日10万台を超える自動車が通過すると考えられるので、「排出されるCO2は、年間8万4000dが毎年放出され続ける」と指摘しています。しかも建設にはばく大な鋼材とセメントが必要で、原材料の生産過程で多大な二酸化炭素(CO2)が大気中へ放出されます。
 意見書は「道路のような公共事業の場合の排出源単位は、建設費100万円あたり、1dであることが国立環境研究所のデータに示されている」と説明しています。建設費を4兆円とすると、400万dのCO2が大気中に放出される計算になります。
 東京のCO2濃度は、406ppmで、人里離れた場所のデータとして気象庁が観測する岩手県綾里の濃度380ppmよりも、26ppmも上回っています。意見書は「そのために東京ではヒートアイランド化が著しく、生活環境を悪化させ」ており、外環道建設でCO2を放出し続けることは、東京が進めている対策に逆行する、と指摘しています。
 石原知事は、「地球温暖化については、足踏みしている暇はほとんどない。20年後の自分たちの子孫への責任」(5月16日)などと温暖化対策を都政の目玉政策に据えてきました。
 意見書は、それを「反故(ほご)にする3環状道路建設やオリンピックに名を借りた無駄な事業をただちに止めるべき」と警告しています。


世界の流れに逆らう 日本共産党 村松友昭都議の話

 韓国のソウルでは、高速道路を撤去しましたが、今どき、ばく大な財政を使い、環境を破壊する高速道路をつくり続けているのは日本くらいのもので、世界の流れにも逆行しています。子どもや孫たちにまで巨額の負債と環境破壊を残す外環道が必要なのか、原点から問い直すべきです。オリンピック招致をテコに強行するなどは、もってのほかです。
 東京都の地球温暖化対策の大きな弱点の一つは、温暖化ガスを排出する自動車の対策がなく、再開発で逆に自動車が都心部に集中する政策をとっていることです。
 渋滞解消が目的だというなら、ビルや自動車を増やす再開発中心の都政ではなく、都市政策を改めることが必要です。交通政策も、公共交通最優先に転換し、自転車通行の普及などを進めるべきです。また自動車交通対策としても右折レーンや立体交差の推進にこそ力を入れ、ロードプライシング(混雑税)が石原知事の公約なのですから、それを実行すべきなのです。
 英国のロンドン市は2003年から中心部に乗り入れる自動車に混雑税を課した結果、中心部の自動車交通量は15%減少し、大気汚染濃度も、12%下がった、と報告されています。財政負担なしにこれだけのことができるのです。


(「東京民報」2008年10月12号掲載)
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