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2020東京オリンピック

葛西臨海公園・五輪カヌー会場問題 みんなの公園壊さないで 会場変更へ強まる世論 | 13/12/8号に掲載

桜並木の下を歩く新婦人江戸川支部「散歩小組」のメンバー

=11月26日、江戸川区・葛西臨海公園
 2020年オリンピックに向けて、葛西臨海公園のカヌースラローム競技場の建設計画が世論の強い関心を呼んでいます。野鳥愛好家や自然保護関係者が、同公園の豊かな生態系が破壊されると心配しているだけでなく、公園利用者からもカヌー会場を別の場所へ変更すべきだとの声が高まっています。

散歩コース奪うな

 台風並みの風雨に襲われた翌日(11月26日)の東京は、抜けるような青空に。新婦人江戸川支部の「散歩小組」の人たち10人がこの日、気持ちよさそうに園内を散歩しました。リーダーの五味淑子さんによると、散歩小組ができてから6年になります。
 その散歩コースの最もいいところがカヌー会場に。玉城千恵子支部長は言います。
 「トンネル状の見事な桜並木も、梅林もどこまで伐採されるのか心配です。20数年かけてやっとここまで成長した樹木を切るなんてとんでもない話です。樹木と、池や谷が織りなす景観を見ながら散歩し、海岸へでると、晴れた日には富士山や房総半島が見られる素晴らしい散歩コースです。ここへ一度でも来てもらったら、会場を変更すべきだとみんな思うでしょう。ぜひ多くの人に見てほしいですね」
 副支部長の須田朋子さんは1日開かれた新婦人の都本部大会でも、現状を報告し、力を合わせて会場を変更させようと訴えました。

都議会でも問題に

 来年で25周年を迎える葛西臨海公園は、80万平方bの敷地に、樹木が大きく育ち、野鳥や昆虫などの楽園になっています。その公園の約3分の1がカヌー(スラローム)会場になり、樹木が伐採され、地形が改変されます。高さ5・5bのスタート地点から2本の水路が掘られ、激流をつくるため毎秒13トンの水量を受け止めるプールが必要になります。
 都議会オリンピック特別委員会での畔上三和子同副委員長(共産)の質問で、プールの大きさが1万平方b(1f)に及ぶことが判明しました。東京ドームのグランド面積(1万3千平方b)とくらべるとプールの巨大さがわかります。
 海岸に造られる観客席は仮設、立ち見含め、計15000人収容の計画です。観客席の高さは、都側が明らかにした15bだとしても、5階建てのビルほどの高さになります。その観客席が300bも城壁のように連なるため、風が妨げられ、生態系への影響が心配されるほか、見晴らしの良い眺望が奪われます。
 畔上氏は、都の環境影響評価報告書によると、現在63%の同公園の緑被率が32%に半減すると指摘。「これでどうして『環境オリンピック』などと言えるのか」と会場変更も含めた十分な検討を求めました。

環境重視のIOC

 日本野鳥の会東京は、会場の変更を求めてたびたび交渉を重ねてきました。同会によると、先月28日の交渉では、都側は、来年の秋までに臨海公園の調査を実施するとのべ、会場変更の検討はその調査の上でのことだとしています。会場変更の場所の調査を並行して進めるべきだとの同会の主張には答えず、来年の調査が終わってからでも変更は可能と答えています。
 カヌー会場の変更を求める同会の賛同団体も125団体と日増しに膨らんでいます。
 野鳥の会東京の働き掛けで、環境重視のIOCも成り行きを注目しています。会場変更はIOCの承認が必要とされますが、川沢祥三同会代表は「IOCが反対するとは思えない」とのべ、都の態度に進展がなければ、再度IOCに働きかけるとしています。

自然保護協会が声明

 東京オリンピック開催年の2020年は、生物多様性条約愛知目標の達成年でもあります。
 日本自然保護協会(亀山章理事長)は9月11日、日本が、「その達成と自然共生型のオリンピック開催に向け、世界に約束した責務がある」と「緊急声明」を発表しています。
 名古屋で3年前に開催した生物多様性条約COP10では、日本が議長国として、192か国とEUによって合意されています。また、日本の提案で、国際社会が協力して生物多様性の保全に取り組むことになった「国連生物多様性の10年」は、2020年が最終年です。
 声明は、こうした世界に約束した日本の責務を強調したうえで、オリンピック招致の立候補資料でも「環境を優先する2020年東京大会」「自然環境と文化遺産の特筆すべき特徴の保護及び強化」「自然と共生する都市環境計画」などの実現を述べていることに言及。「しかしすでに会場に関しても葛西臨海公園でのカヌー競技場の問題や、新国立競技場の大面積のイメージ図などからも既存の良好な環境の損失が懸念される」と指摘しています。

会場変更は可能

 競技施設の変更や別の場所に施設を移すことは、今からでも可能です。
 北京オリンピック(2008年)では、「鳥の巣」といわれたメーンスタジアムが、設計途中でオープンスタンドに変更されています。国立競技場の建て替え問題で縮小の要望書を出している建築家の槇文彦氏は、ロンドンオリンピック(2012年)を例に挙げ変更を提案しても「IOCの反対はないであろう」と述べています。
 屋根もロンドンオリンピック(2012年)では、全天候型ではなく、固定2万5千席、仮設5万席で実施されています。
 日本でも1998年の長野冬季オリンピックでは、岩菅山滑降コースが変更されています。
 自然環境の影響を避けるため、滑降コースの新設をさけ、既存施設を活用すべきだとの自然保護協会などの粘り強い要望が実ったものです。
 オリンピックではありませんが、国際的なイベントの愛知万博「愛・地球博」(2005年)では、当初会場に予定された里山の「海上の森」が大規模な開発計画から守られています。
 この森で自然観察会を続けていた数人の人の訴えで、日本自然保護協会やWWFジャパン、日本野鳥の会が合同で、現地視察・調査を行い、計画の見直しを求める要望書や声明を発表。国への働き掛けと、世論の形成に努力し、会場の大幅縮小、海上の森の北地区の開発が計画中止になりました。
 数人の市民から始まった自然を守る運動が国際的事業の計画見直しに結びついたものです。

(「東京民報」2013年12月8日号に掲載)