米軍横田基地周辺の井戸で、健康への有害性が指摘されている有機フッ素化合物が高濃度で検出されたことが10日までにわかりました。米軍が泡消火剤の成分として同化合物を使っていたことから、アメリカ国内各地で、基地周辺の地下水などの汚染が深刻な問題になっています。横田基地周辺住民は、国と都が早く対策をとってほしいと訴えています。
検出されたのは、PFOS(ピーフォス)、PFOA(ピーフォア)と呼ばれる有機フッ素化合物です(ことば)。
都が昨年1月、横田基地周辺の4カ所の井戸で、両物質の濃度を調査したところ、立川市の井戸で両物質合わせて1リットルあたり1340ナノグラム、武蔵村山市の井戸で同134ナノグラムを検出しました。両物質の日本の水質基準はまだなく、米国内では、飲用水1リットルあたり合計で70ナノグラムという「勧告値」を設定しています。立川市の井戸の検出値は、この約19倍にあたります。
10日には、日本共産党がこの問題で、国会内で防衛省に対して聞き取りを行い、情報開示や調査などを求めました。笠井亮、宮本徹両衆院議員、吉良よし子、山添拓両参院議員、都議、地方議員らが参加しました。
防衛省は、米軍は、両物質を含む泡消火剤を2016年以降、訓練では使っておらず、順次、非含有のものに交換していると説明しました。宮本氏が、過去に横田基地で大量の泡消火剤が貯蔵タンクから漏出したと報道されていることをただしたのに対し、防衛省は漏出の事実を認めました。
参加者は、日米地位協定の補足協定で、環境基準について「日本、米国又は国際約束の基準のうちより厳しいものを採用する」としていることを指摘し、「子どもたちへの影響など、心配が広がっている」「米国内の勧告値を超える汚染が出ていることに、米軍の対応を求めるべきだ」などの訴えが相次ぎました。
州が湖の閉鎖求める
米軍が飛行機事故などの際の泡消火剤に使っていたPFOSやPFOAに代表されるPFAS(ピーファス)汚染は、米国内の基地周辺で深刻な問題になっています。
アメリカの環境団体は、国防総省の資料をもとに、米国内の305カ所の基地や関連施設周辺で、PFAS汚染の可能性があるとしています。
このうち、ニューメキシコ州のホロマン空軍基地周辺では、人気のキャンプ地だった湖で、勧告値の数十倍もの汚染が判明。州が、湖で泳がないことや、ペットなどに水を飲ませないこと、米軍が湖を閉鎖することなどを求めたと報じられています。
同州は、州内の二つの基地の地下水汚染を解決するよう求めて、米空軍を相手に訴訟を起こしました。
アメリカ議会では、19年3月、国防総省の担当者が、米国内の基地のPFAS汚染の除去に、少なくとも20億ドル(約2200億円)かかるとの見込みを語っています。
横田基地の撤去を求める西多摩の会の高橋美枝子さんは「米国内のさまざまな基地で深刻な汚染がわかっており、横田も汚染の可能性は高い。住民の命を守るための真剣な対策を、国、都に取ってほしい」と話します。
都議会で調査求める
PFOSやPFOAによる汚染をめぐっては、沖縄の嘉手納基地や普天間基地周辺などで、飲料水として使われている水から汚染が見つかり、県が活性炭除去などの対策をとっています。
共産党の原田あきら都議は昨年12月の都議会代表質問で、横田基地でも汚染の可能性があるとして、「立ち入り調査を求めるべき」と質問しました。
都は、今回明らかになった汚染を内部で把握していたのに明らかにせず、「現時点で立ち入りは困難」と述べるだけでした。
都は、汚染が、横田基地から発生したものかは今のところ不明としています。土壌・地下水汚染が専門の畑明郎日本環境学会元会長(大阪市立大元教授)は、汚染が見つかった井戸周辺の調査など、都が早く対応を取るべきだと指摘します。
原因把握を早期に 日本環境学会元会長 畑明郎さん
有機フッ素化合物は、揮発せず、物質的に非常に安定し、汚染が残り続ける厄介な物質です。
今回、都は汚染源が横田基地かは不明としていますが、かつて米軍が使った泡消火剤に含まれていたこと、米軍が泡消火剤の流出事故を起こしていることなどから、横田基地に由来する可能性は、十分に考えられます。
都は地下水の流れが複雑で原因が特定できないとしていますが、類似の有機塩素化合物の汚染では、汚染源と考えられる敷地の境界付近をボーリング調査するなど、汚染源を特定する調査方法は確立しています。そうした方法に基づき、都や国、米軍が、きちんと調査すれば、原因がはっきりするはずです。
都は基地内の立ち入り調査や、基地内の井戸の水質データを公表させるなどの対応を取るべきです。また、米軍が応じない場合でも、今回、検出された井戸周辺の井戸を調査するなど、汚染の広がり状況を把握すれば、分かってくることも多いでしょう。
汚染の程度や分布状況がわかれば、対策を取って封じ込めていくこともできます。都、国には早期の対応が求められます。
PFOS、PFOA、PFASとは
PFOSはペルフルオロオクタンスルホン酸の略。PFOAはペルフルオロオクタン酸の略。PFASはペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の略。
耐熱性や耐薬品性など、すぐれた安定性がある界面活性剤で、撥水剤や防汚剤、フライパンのテフロン加工、泡消火剤などに広く使われました。多くの工業分野ですでに使用されていませんが、自然界に残された両物質はほぼ分解されず残り続けるため、フォーエバーケミカル(永遠の化学物質)とも言われます。
2000年代にアメリカで、大手化学メーカーデュポン社による飲み水汚染の健康被害が調査され、注目されました。研究段階にあるものの、人体への残留性が高く、発がん性や、血液中のコレステロール値を増やすこと、妊娠性高血圧の発生増などの危険性が指摘されており、各国で規制の動きが出ています。
(2020年1月19日号より)