【連載】止めよう都立・公社病院独法化① 先駆的実践の歴史に泥 〈5月17日号より〉

 5月7日、京王線府中駅からバスで都立神経病院の前に来た。同じ敷地に旧・東京都神経科学総合研究所(1972年設立・神経研と略)の建物が残っている。今は東京都医学総合研究所に統合された。温故知新。

 2019年参議院選挙でALS(神経難病)を抱える方が初めて国会議員に当選した。

ALSケアに挑戦

 このALS患者の在宅ケアシステムに日本で先駆的に挑戦したのが、神経病院と神経研だった。美濃部都政の医療政策が動き出したことで、入院から在宅ケアの暮らしまでを連続させていく挑戦が開始されたのだった。

 美濃部都政の医療政策は、都市の自治の思想と結びついていた。その都市自治の思想は、ルネッサンス期イタリアにまでさかのぼることができる。「最も恵まれない人に最も美しい施設を」提供することが、新しい都市自治思想である。

 民間病院ではできない。専門家もいないし、病院経営にもプラスにならない患者と呼ばれる人たちを扱わない。

 大学病院でも研究が進まない。60年代大学紛争は、医学部の非民主的権力システムへの反抗から始まったもので、非エリート集団を救済するためではなかった。大学病院は研究のための研究実験のためにある。

 難病を抱えている人々は、置き去りだった。そこに医療と福祉の光を当てたのが、東京都だった。

経営至上へと変化

 時代を超えて言うならば、ALSの国会議員を出すことができたその原点は、都立神経病院と神経研の仕組みであり、その最前線で医学と在宅福祉を連結させた難病チームの実践の成功にある。

 その後の都政の医療政策は、財政問題と経営史上主義に力点が変化してきた。石原都政は、社会的弱者の救済を第一に捉えるのではなくて、「病院経営」を都財政問題とからめて、既存の都立病院の縮小統廃合と、民営化・市場化をおこなった。

 しかし、1980年代の鈴木都政までは、医療について、都立病院の役割を「生活の質の向上を支えるサービスは、プライバシー確保の配慮、精神的不安、苦痛からの解放、また患者の立場に立った施設の整備や接遇はもとより、院内の美しさにまで配慮が届くなど『心温まる医療』を実現するもの」とされていた。

 人類は常に新しい病気に直面してきた。新型コロナショックのただ中にある今年3月31日、小池知事は、ALS等の先駆的実践の歴史に泥を塗り、都立病院の民営化に繋がる「地方独立行政法人」化方針を打ち出した。

 これは、都市自治の思想の退廃である。(安達智則・東京自治問題研究所主任研究員)

(東京民報2020年5月17日号より)

関連記事

最近の記事

  1. 同性婚に対する党の方針を示す、(左から)立憲、共産、自民、公明、維新の代表者=22日、千代田区 …
  2. 杉並区 予算案を可決  杉並区議会は18日、岸本聡子区長が提案する2024年度一般会計当初予…
  3. 1面2面3面4面 【1面】 全盲の学生 「自分の力で通学したい」 大学前に音響信号ついた…
  4. 日本記者クラブで講演=3月19日、千代田区  新たな任務にたくさんの激励、期待の声をいただい…
  5.  自民党の裏金問題をめぐる衆院政治倫理審査会に18日、下村博文元文部科学相が出席しました。下村氏は…

インスタグラム開設しました!

 

東京民報のインスタグラムを開設しました。
ぜひ、フォローをお願いします!

@tokyominpo

Instagram

#東京民報 12月10日号4面は「東京で楽しむ星の話」。今年の #ふたご座流星群 は、8年に一度の好条件といいます。
#横田基地 に所属する特殊作戦機CV22オスプレイが11月29日午後、鹿児島県の屋久島沖で墜落しました。#オスプレイ が死亡を伴う事故を起こしたのは、日本国内では初めて。住民団体からは「私たちの頭上を飛ぶなど、とんでもない」との声が上がっています。
老舗パチンコメーカーの株式会社西陣が、従業員が救済を申し立てた東京都労働委員会(#都労委)の審問期日の12月20日に依願退職に応じない者を解雇するとの通知を送付しました。労働組合は「寒空の中、放り出すのか」として不当解雇撤回の救済を申し立てました。
「汚染が #横田基地 から流出したことは明らかだ」―都議会公営企業会計決算委で、#斉藤まりこ 都議(#日本共産党)は、都の研究所の過去の調査などをもとに、横田基地が #PFAS の主要な汚染源だと明らかにし、都に立ち入り調査を求めました。【12月3日号掲載】
東京都教育委員会が #立川高校 の夜間定時制の生徒募集を2025年度に停止する方針を打ち出したことを受けて、「#立川高校定時制の廃校に反対する会」「立川高等学校芙蓉会」(定時制同窓会)などは11月24日、JR立川駅前(立川市)で、方針撤回を求める宣伝を21人が参加して行いました。
「(知事選を前に)税金を原資に、町会・自治会を使って知事の宣伝をしているのは明らかだ」―13日の決算特別委員会で、#日本共産党 の #原田あきら 都議は、#小池百合子 知事の顔写真と名前、メッセージを掲載した都の防災啓発チラシについて追及しました。
ページ上部へ戻る