劇団前進座は10月に、都内4つの劇場で「残り者」を公演します。幕府から新政府への「江戸城明け渡し」で迎えた大奥最後の日、大奥に居残ることになった、5人の女性と、1匹の猫の物語です。作家の朝井まかてさんの同名小説が原作(演出=鵜山仁)。脚本を担当した朱海青さん、出演する浜名実貴さんが対談で語り合います。(荒金哲 写真・五味明憲)
女性が活躍できる作品、と
―この小説を舞台化することになった経緯は。
朱 前進座の公演企画を検討する会議で、文芸演出部員の男性から提案があったんです。前進座の女性陣が活躍できる作品になるのでは、と。
大奥の物語というと、どろどろの愛憎劇というイメージがありますが、この小説はまったく違って、大奥で働く女性たちの姿に、現代の女性も共感できるような物語だと感じました。
浜名 私が演じる「りつ」は、14代将軍の御台所(妻)だった天璋院(篤姫)の衣装を縫う「御針子」です。天璋院がある時、りつが縫った衣装を「不思議と着心地が良い」と言ってくれた。そのことに誇りを持ち、いわば専門職である御針子として、大奥で生きてきました。
―食事づくりが担当の「膳所の御仲居(なかい)」、外部の商人らとの売買交渉を担当する「御表使(おもてづかい)」など、当時の大奥は、いわばキャリアウーマンたちの集団だったんですね。
朱 将軍の寵愛を求めて競い合う女性たちは、大奥のほんの一部でした。江戸幕府にやとわれ、そこを職場として働き暮らす女性たちが、大半です。
浜名 多い時には、1千人もの女性がいたといいます。りつは、貧しい武家の出身ですが、町場から行儀見習いで来る女性もいる。いろんな出自の人が集まっていることも、驚きでした。
居場所を奪われて
―大奥は「私たちの家だった」という言葉が出てきます。それが、幕府と新政府との、政治と戦争によって奪われる、そんな一日を描いています。
朱 自分の居場所として、ずっとあり続けると思っていたものが、ある日、なくなる。「えーっ、聞いてないよ!」という感じでしょうね。
浜名 偶然が重なったり、猫を探していたり、それぞれが「残り者」となる理由は、さまざまです。たまたま集まったのに、一晩をともに過ごすなかで不思議な連帯が生まれます。
朱 身分社会で、専門職がはっきりと区分されている大奥では、普段だったら会話もしなかったでしょうね。ですから、最初は、さまざまな対立も生まれます。
―特に、りつと同じ御針子で、京都からきた「もみぢ」は、最初は不協和音ばかり生み出す、すごく嫌な人に見えます。
浜名 毎日、もみぢさんに、いじめられています(笑)。だけど、互いのことを知るうちに、りつはもみぢが、一見、全く違う生き方をしているのに、大奥で生きてきた思いは一緒なんだと気づいていきます。
朱 女性たちの生きてきた居場所が最終的に奪われてしまうこと自体は、変わらないけど、偶然集まった5人が、互いを知る中で、明日に向かっていこうという気持ち、未来への約束めいたものが生まれていきます。
日本社会は、「一致団結」が重んじられ、同調圧力が強いといわれるけど、互いにさまざまな人生があるんだと知るなかで、仲間としての思いがわいてくる。「多様性のなかの連帯」を感じます。その姿から、観る人が「明日も頑張っていこう」という気持ちになってもらえたらと思います。
あたたかい支援が
―コロナ禍で、前進座も5月の国立劇場公演の中止など、大きな影響を受けました。
朱 自宅待機の期間中、芝居を演じる意味とか、色々なことを考えさせられました。また、国立劇場公演中止を受けて、全国からの募金など物心両面のあたたかい支援を寄せていただきました。今、改めて舞台をやるからには、心して作りたい。明日へ一緒に進んでいこう、そんな思いを伝えられる舞台にしたいと思います。
浜名 さまざまな劇団が、舞台公演のあり方を模索しています。稽古も、マスクを着けたままだったり、普段は感じないようなことをさまざまに感じさせられます。その一つひとつを大切に、前進座に寄せていただいた、大きな支援にこたえられる舞台を作り上げたいと思います。
(東京民報2020年9月6日号より)
〈アーカイブ版、追記=2022年2月1日〉前進座公演「残り者」の舞台を収録したDVDが販売されています。問合せは前進座、またはDVD販売ページ。