一国のリーダーのあり方 『世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカ 日本人へ贈る言葉』 佐藤美由紀 著〈12月20日号より〉
- 2020/12/21
- 書評
「世界でもっとも貧しい大統領」といわれたウルグアイの元大統領ホセ・ムヒカさんが、10月で政界を引退したと報道されました。85歳です。

2012年、ブラジルのリオで開かれた国際会議でのスピーチが大きな反響を呼び世界中が注目しました。
なかでも「貧乏な人とは少ししか持っていない人ではなく、無限な欲がありいくらあっても満足しない人のことだ」の言葉が“もっとも衝撃的なスピーチ”として話題になりました。2016年4月には日本に招かれ、メディアでも大きく取り上げられました。
著者の佐藤さんは、はるばる30時間以上もかけて地球の裏側にある小さな国へ出かけました。
「命を賭けて闘った革命の戦士、13年間もの過酷な獄中生活を経験し、一国のリーダーを務めた人。また、自らの生き様で質素の哲学を貫く哲学者でもある」元大統領に会うために。
そして上院議員である妻とともに出迎えてくれたのは農場に佇む小さな平屋の家と愛車である1987年製のワーゲン・ビートルでした。取材時の開口一番、ムヒカ氏は問いました。「日本は技術がとても進んだ国。そこで私は聞いてみたい。みなさんは本当に幸せなのですか」
本書では、日本や世界の国々で発せられたムヒカ氏のスピーチから、私たち日本人へのメッセージともなり得る数々の言葉を紹介しています。幸せとは何か、これからを生きる君へ、愛と優しさについて、そして人間ホセ・ムヒカについて。
「人は独りでは生きていけない。恋人や家族、友人と過ごす時間こそが生きるということ」
「私は貧乏ではない。質素なだけだ。質素は自由のための闘いだ」
「(若者へ)学ぶ機会を最大限に活用してください。青春は鳩のように一瞬で飛び去っていきます」
さらに「我々(ウルグアイ)はヨーロッパや日本を真似してはいけない。痛みや悲しみを伴う発展は必要ないのです。多くの人が幸せになる発展が必要です」と言い切ります。
一国のリーダーとは?としみじみ考えてしまう一冊です。(なかしまのぶこ・元図書館員)
(東京民報2020年12月20日号より)