街角の小さな旅(8)中村屋サロン美術館とアトリエの風景 封建的くびきとたたかう女性への共感〈2021年4月4日号〉

新宿駅東口のすぐ近く新宿中村屋ビルの3階に中村屋サロン美術館があります。

 白で統一された2室の展示室があり、彫刻家・荻原碌山(守衛)がアトリエに残した作品と1907年の新宿でのパン屋開業以降、のちに「中村屋サロン」と呼ばれるようになった経営者の相馬愛蔵・黒光夫妻と碌山のもとにつどった戸張孤雁、中村つねなど若き芸術家たちの収蔵作品が展示されています。(現在、「中村屋サロンアーティストリレー第3回」開催中・5月23日まで。企画展中も碌山の「女」をはじめサロンゆかりの作家の作品を展示。通常展示は6月2日から)

 展示室の入り口近くに日本近代彫刻の頂点にたつ彫刻「女」(国重要文化財)が展示されています。作者の碌山は相馬夫妻と同郷の長野県穂高村の出身で、アメリカを経てフランスに渡り、彫刻世界に衝撃的な影響を与えたオーギュスト・ロダンに学び、ほぼ、仏像彫刻に閉ざされ、近代化のもとでも巨大な軍人や政治家像もしくは西欧の彫刻の模倣に止まっていた日本彫刻界にあらたな理念・創作方法による彫刻をもたらしました。

 碌山の帰国後の創作活動はわずか2年。30歳で15点の作品を残して急逝しました。その数少ない作品のなかの坑夫、労働者を彫刻した作品に示されているように、封建制から資本主義制度に移行した日本に出現した労働者階級にあたたかいまなざしを注ぎ、ロシア革命とたたかう日本の労働者に連帯の思いを寄せていた作家であり、日露戦争に批判の声をあげた思索家でもありました。

 碌山の絶作となった「女」は黒光が「足が地について立上がれない」姿と表したように、封建的くびきがつよく残されていた時代の女性を象徴するとともに、ひざから腰、胴、首、顔と「突出と後退を交互に繰り返す多数の面の組み合わせと均衡」(「荻原守衛」林文夫)、身体の螺旋的上昇によって女性の解放を希求する時代のムーブメントがこめられたものとなっています。

 そこには「芸術運動、社会運動、政治運動などの領域で、当時ようやく慌慌しく女性解放のたたかいが進展しはじめていた」(同)ことへの碌山の共鳴が示されているのではないでしょうか。この像を高く評価したのが片山潜でした。

中村彝アトリエ記念館
中村彝アトリエ記念館
中村彝アトリエ記念館

 碌山のつよい影響を受け、碌山が設計した中村屋裏のアトリエで創作活動に励んだ中村彝が、その後の短い生涯を過ごした木造のアトリエを復元した記念館(新宿区立)が目白駅近くにあります。彝はこのアトリエで、盲目の亡命ロシア詩人の「エロシェンコ氏の像」を制作しました。吹抜けのアトリエ、小さな洋風住宅と庭。絵はがきの世界がありました。

佐伯祐三アトリエ記念館
佐伯祐三アトリエ記念館

 この記念館からアートの小路(クロッチと歩くお散歩マップ)をたどるとパリの街角風景を描いた佐伯祐三の木立に囲まれたアトリエ記念館(同)。このあたりはかつて目白(落合)文化村があったところです。

 中村屋サロンのメンバーと交流のあった熊谷守一。その美術館はかつて長崎アトリエ村があった豊島区千早町にあり、外壁の守一の「蟻」が迎えてくれます。(最寄り駅・千川駅)

熊谷守一美術館

 守一は東京美術学校(現東京芸術大学)に油絵を学び、単純化された形態と明快な色彩を特徴とする「モリカズ様式」を確立。やがて日本画や墨絵・書などさまざまな描法で、猫や蟻など身近な小動物や花などを好んで描いた作家でした。

 また、極貧の生活を送ったことでも知られ、「戦争画を描くこともなく、なるべく目立たないように、自分の思うまま、そっと生きた」「晩年も生き物や植物、何気ない身の回りをじっと見つめて、描きたい時だけ描いた」(熊谷榧美術館長)といいます。鉛筆画の「がま」が人の気配を感じてか、のそり。 末延渥史

東京民報2021年4月4日号より

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