読書 今月の本棚と話題*『知られざる拓北農兵隊の記録』 鵜澤希伊子 編著〈2021年4月18日号〉
- 2021/4/18
- 書評
知るべき戦争の惨禍

1900円+税
うざわ・きいこ 1930年東京都生まれ。父が拓北農兵隊に応募。家族で北海道へ。教員生活後退職
拓北農兵隊の事をどれだけの人が知っているでしょうか。本書はその知られざる拓北農兵隊の過酷な戦争惨禍の記録です。
拓北農兵隊とは、戦時中、政府によって東京大空襲などで焼け出され行き場を失った戦災者を、北海道に集団で移住・帰農させたものです。
発表された募集要項では、「土地、農具は無償で供与」し、住宅も提供されるなど良い事づくめ。空襲で生活の展望を失っていた人々は、国策によって食糧増産の「開拓の戦士」として北海道に渡ったのです。
しかし「待ち受けていた現実は程遠い」、過酷なものでした。土地は沃土どころか泥炭地など、北海道の農民たちも開拓をあきらめたような土地でした。そこを農業経験のない者たちが開墾しなくてはならなかったのです。
用意されていた住宅も牛舎を板で区画した、「異様な臭気のする窓のない真っ暗な一間」などでした。そして待ち受ける東京では経験できない極寒。開墾のあまりの厳しさから離農する家族も多く、過酷な生活で若くして死んで行く人も。
さらに問題だったのは、帰農直後の8月15日に敗戦となり、戦前に政府と約束したことが反故にされたことでした。甘い言葉で北海道に行かされ、挙句の果てに、いわば「棄民政策」として過酷な土地に捨てられてしまったのです。
本書に収録されたドキュメントなど拓北農兵隊となった人々の血のにじむ記録の一つひとつが胸に迫ってきます。
それは「戦争は二度とやってはならない」こと、政治の責任の重大さを教えてくれ、福島原発事故、コロナ禍などの中で、現代の私たちがどう生きていくかを考えさせられます。
拓北農兵隊は全国からも募集されましたが、最初は世田谷、杉並、新宿、江東など東京都の戦災者が中心でした。北海道の歴史であるとともに、東京の歴史なのです。すべての人々、とくに都民一人ひとりが戦争の惨禍として知るべき貴重な記録の一冊です。(柏木新・話芸史研究家)
東京民報2021年4月18日号より











