共同親権 子どもの利益考え慎重に 急ピッチな検討に不安の声〈5月16日号より〉
- 2021/5/16
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上川陽子法相は今年2月、家族法制の見直しを法相の諮問機関である法制審議会に諮問しました。養育費未払い問題の他、親子間の面会交流、親権制度など親が離婚した際の子どもに対する課題の検討が急ピッチで進められています。制度の変更が子どもの健全な育成に寄与するものなのか、専門家や当事者から心配の声が上がっています。

注目を集めているのは、離婚後に父母の双方が子の親権を持つ「共同親権」導入の是非です。推進運動を行う団体は同制度の導入で「子に対する責任が明確になる」と主張しています。しかし▽離婚に至るまで父母間の対立が長引く▽離婚等の手続きが進まなくなる▽進学や修学旅行、留学の海外渡航など子に関する意思決定が難航するーとの懸念があります。さらにドメスティックバイオレンス(DV)などで心身に被害がある場合も深刻で、命を守るため子どもをともなう避難がいっそう困難になります。
一方で共同親権推進運動は「離婚後もパパとママ」「チルドレンファースト」などと掲げ、全国的に展開され、自民党や日本維新の会などの政治家も行動を共にしています。ゴールデンウイーク中も全国規模の集会の開催を東京都の緊急事態宣言により急遽、まん延防止措置がとられている埼玉県に越境して強行開催。裁判官や弁護士への敵視から、家庭裁判所前(家裁)で拡声器を通した威嚇宣伝も全国的に展開されています。
親子間ストーカーの当事者やDV加害者が、共同親権の考えを悪用するという指摘もあります。
〝松戸100日裁判〟といわれる親権をめぐる離婚裁判で「年間100日程度の面会」を提案したものの、上告を棄却(2017年)され、納得せず運動の中心を担うのが、政策研究大学院大学の准教授の渡邉泰之氏です。渡邉氏は嘉田由紀子参院議員の甥です。嘉田氏も4月、同運動のオンラインシンポで「(秘匿とされているDV避難者の)シェルターは滋賀県には〇〇市にある(現在、削除済)」と発言。被害者の命を危険にさらすと厳しく批判され続けています。
DV問題や性暴力事件を専門に扱う岡村晴美弁護士は「10年ほど前までは法律相談に来た男性は〝妻が子どもを連れて出て行った〟と語っていたのに、今は〝妻が子どもを連れ去った〟と言う」として、背後に「子どもを連れての避難を〝連れ去り〟〝誘拐〟と表現し、刑事告訴などを行う共同親権推進運動の影響がある」と指摘します。

交流時に事件も
良好な関係を築けるなら離婚後も問題なく、親子間での交流が行えます。しかし、面会交流については近年、原則実施論と言うべき運用がなされており、面会交流が制限される背景にDVや虐待がある場合も少なくありません。虐待や▽子どもの写真をインターネット上に顔が分かるように(裸の場合も)掲載▽子どもの学校に押し掛ける▽元妻子と同じ建物に転居する―など、常軌を逸したストーカー行為も起きています。
こうした行為は、離婚後も子どもをツールとして元配偶者を支配し続けることにつながりかねません。他方、静岡県藤枝市では学校施設内での別居親との面会交流を進めています。家庭環境が知られ、いじめの原因になる可能性や教育現場の荷重負担が叫ばれる中、専門知識のない現場にさらなる追い打ちとなるという心配の声があります。
元家裁の調査官員も「離婚や別居後、親子の面会交流時に元妻や子どもが殺される事件もあり、慎重な対応が不可欠だ」と厳しく指摘します。
一方で子どもの養育費の支払い率は2割。貧困の原因のひとつであり解消は急務です。離婚届に養育費の取り決めの有無を記載するという改正が報道されていますが、家裁で取り決めた養育費でさえ未払いが現在も多く、実効性をいぶかる声が少なくありません。
共同親権の推進を慎重に進めて欲しいと運動を進めるシングルマザーらは「親権は親の権利ではなく、子どもに責任を持つこと。子どもの健全な成長と福祉が前提になるべき。命を守ることを最優先に、慎重に進めて欲しい」と訴えています。
(東京民報2021年5月16日号より)











