読書 今月の本棚と話題*『非国民な女たち 戦時下のパーマとモンペ』 飯田未希 著〈2021年5月23日号〉

統制に“負けない”女たち

中央公論社 2020年
1870円(税込み)
いいだ・みき 立命館大学政策科学部教授。専攻は社会学、文化研究、ジェンダー論

 戦時中は「贅沢は敵だ」「パーマネントはやめましょう」という時代であったことは知っています。だから当時の女性はみんな「モンペ」をはき、髪は後ろで結わえているものと思っていました。

 ところが著者は当時のある写真に注目しました。戦時下であるにもかかわらず、ズボンのようなワイドパンツにスカート、さらにはパーマらしき髪型の女性を見つけたのです。そこで当時の新聞や婦人雑誌などを丹念に調べその実態を調べました。

 まず「モンペ」。戦前の女性の服装は和服から洋装への過渡期であり、「合理的」な「洋服の作り方」が切実に求められ、新聞や雑誌にはその「作り方」が紹介され、今も著名な杉野芳子、田中千代などの「洋裁学校」が大いに繁盛していました。しかし、日中戦争、日米開戦以降、様々な「華美禁止令」が出て「モンペ」は大いに奨励されましたが、実は今思う程に皆がそうではなかったようです。「いくら非常時でもただ活動しやすいだけのものより、少しでも美しさのあるものを着たいのが女性では」と杉野は語っています。

 では「パーマ」は?

 「パーマは短髪を可能にした近代的で活動的な髪型と言える。何よりも合理的であった」。しかし戦時中は都会的消費文化の「奢侈」と「浮薄」の象徴と意味づけられ「非国民」的髪型として排除の対象になり禁止令が次々と出されました。

 新聞なども「ヤマアラシ」とか「雀の巣」などと非難する投書をこぞって載せ、美容家山野愛子の子どもたちは「パーマ屋の子どもやーい」と石を投げられたという。しかし、パーマネント製造機は飛ぶように売れ、地方都市の美容室にも女性たちが押し掛け「防空壕の中でもパーマをかけた」という記録もあり、電力統制下では「木炭パーマ」も登場しました。政府はあらゆる法令を発し、メデイアも使い統制を試みますが、この労作を読む限りでは女たち負けてはいなかった、まさに「非国民な女たち」に勝算はあったと思えました。

 「女というものはどんな時にもおしゃれを捨てることはできない」―ある美容師の言葉です。(なかしまのぶこ・元図書館員)

東京民報2021年5月23日号より

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