読書 今月の本棚と話題*『アウシュヴィッツの画家の部屋』 大内田わこ 著〈2021年7月18日号〉

生死の境で描かれた絵

東銀座出版社 2021年
1363円+税
おおうちだ・わこ ジャーナリスト。しんぶん赤旗記者、同日曜版編集長など歴任

 「第二次大戦中、ナチス・ドイツの殺人工場であったアウシュヴィッツ強制収容所に、収容されていたポーランド人が絵を描く『画家の部屋』があった」ー信じがたい話です。

 しかし、収容所美術館は確かにありました。1941年10月~44年2月まで、アウシュヴィッツ第1収容所24号棟にあり画家たちの工房(画家の部屋)はその地下に置かれていたといいます。

 そこでの作業を命ぜられた画家たちは、SS(ナチス親衛隊)の発注による作品を制作する傍ら、禁じられていた収容所の過酷な現実、宗教画、仲間の肖像画等を作成しひそかに残したのです。

 筆者は、これらの作品と2017年9月に出会い「命がけで描かれたこれらの絵」のことを書かなければとこの本になったと言います。まさに、生死の境で描かれた絵の心ふるわす物語です。

 SSの絵の発注は、ナチス本部に報告する収容所の拡張工事の進捗しんちょくの記録画、収容所の管理運営のためのポスター等のほか、SS幹部の個人的な肖像画などもあったといいます。生きることさえ容易でなかった残酷な収容所の中で、ともかく絵を描くことによってその時間を生きのびるぎりぎりの選択であったに違いありません。

 多くの作品は没収されたり破棄されたりしたのですが、筆者は残された作品とそれを描いた画家たちを可能な限り紹介しています。幸いにも1944年5月のナチス敗北によりアウシュヴィッツから生きて解放された多くの人々の証言が得られています。収容所内の抵抗組織や収容所周辺の支援組織の存在や活動にも触れられています。

 ユダヤ人100万人余りをガス室で殺した「ショアー(大虐殺)」を目撃した画家「MM」(名は分かっていない)は、22枚のスケッチを残しています。アウシュヴィッツの貴重な証言です。

 アウシュヴィッツ収容所には「音楽隊」もあったと言います。

 コロナ禍の中ですべての芸術が「不要不急」と扱われがちな我が国の現状を見るとき、芸術に命を懸けた、かの国・かの時代の人々の生き方に深い嘆息をつかずにはいられません。感動の1冊です。(フリーライター・松原定雄

東京民報2025年2月16日号より

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