読書 今月の本棚と話題*『落語からわかる江戸の旅―いろは落語づくし』稲田和浩 著〈2021年7月18日号〉
- 2021/7/18
- 書評
落語と旅の面白さ再発見

1400円 (税込み)
いなだ・かずひろ 1960年生まれ。作家、脚本家、日本脚本連盟演芸部副部長
江戸時代の旅を落語から読み解いた一冊です。文体もわかりやすく、気軽に読めます。
知らない言葉・事柄・歴史上の人物についても番号付きで解説しており、知識も深まります。
江戸の旅の話らしく「いろはづくし」になっているのも面白く、まず「い」は「伊勢参り」です。江戸っ子たちが参拝だけでなく、京、奈良、大坂の旅を楽しんだのです。
「江戸っ子は一生に一度は伊勢参り」と言っていたそうです。費用も日数もかかるのでほとんどの人が行けなかったそうですが、「いつかは行きたいね」と伊勢参りの話題も楽しみだったのです。
該当する落語は、「三人旅」「東の旅」「軽業見物」「七度狐」「矢橋舟」。
「ろ」は「六十六部」です。六十六部とは巡礼の一種。写経した六十六部の法華経を六十六カ所のお寺に収めるために旅するもので、野宿もあり物見遊山でなく辛い旅です。
該当する落語は、「花見の仇討ち」。飛鳥山での長屋の花見の余興で、浪人と巡礼、六十六部に扮した連中が偽の仇討ちのお芝居で盛り上がろうというところに本物の侍の助太刀が登場して大慌てに。
「は」は「旅籠」です。該当する落語は、「竹の水仙」「ねずみ」「三人旅」。「ねずみ」は、左甚五郎が奥州の仙台を旅する噺です。
「に」は「荷物」(該当する落語は「三十石」)。「ほ」は「北海道」(該当する落語は「弥次郎」)…と楽しい旅、辛い旅と落語に見る江戸の旅は続きます。
江戸っ子は鉄道もバスもない時代でも旅を楽しんでいたのです。落語と旅の面白さを再発見できるお薦めの一冊です。
現在、コロナ禍の中で、旅行を楽しみたいのに、それがままならない人が多いのではないでしょうか。この本を読んで少しでも旅行気分を味わって下さい。
とはいっても「へ」の「べちょたれ雑炊」(該当する落語は「七度狐」)は食べたくありません。どんな「雑炊」かは、本書をお読み下さい。(話芸史研究家・柏木新)
東京民報2021年7月18日号より











