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- 街角の小さな旅⑫ ちひろ美術館と三宝寺池 子どもたちの未来と平和な世界を希求し〈2021年8月1日号〉

ちひろ美術館は西武新宿線上井草駅から徒歩で7分ほどの住宅地のなかにあります。
いわさきちひろは“絵本でなければできないこと”に挑戦した「雨の日のおるすばん」や「ゆきのひのたんじょうび」、「若い人の絵本」シリーズ、「戦火のなかの子どもたち」などを世に問うた絵本作家。美術館はちひろの自宅兼アトリエの跡にたてられたもので、子どもたちが人生で初めて訪れる美術館「ファーストミュージアム」として親しまれています。
美術館ではちひろの絵の原画とともに“ちひろが愛し、育てた草花や樹木”が植えられている「ちひろの庭」、窓の外の木々を眺めなら創作に励んだアトリエが迎えてくれます。絵本も図書室で閲覧できます。
ちひろの子どもたちの絵に向かうと、人間に対する深い共感、慈しみ、生きてあることの喜びを静かに静かに、しかしあつくあつく感じることができます。そして憤りと大人の責務も。
子どもたちのその瞳ははるかはるか遠くの未来へ観る者を誘っているかのようです。
「小さい子どもがきゆとさわるでしょ、(略)あんなぽちゃぽちゃの手からあの強さが出てくるんですから。そういう動きは、ただ観察してスケッチしていてもかけない」とちひろはいいます。
ちひろさんは、どの子も、白い紙の上に描いたときには、生きている子どものように思っていたんだと思います
黒柳徹子「いわさきちひろ」
ちひろは自ら子どもを育て、近くで遊ぶ子どもたちを飽かず眺め、赤ちゃんを抱っこし、保育園の子どもたちを月齢ごとに何百とスケッチすることで、「ただ観察」するだけでは達せられない、「生きている子ども」を自在のものとすることができました。
絵を1枚1枚描いているときは、わりと楽しくて、つぎつぎといろいろな場面が目に浮かびます。だからどんどん描いてしまうのですけれど、さて描きあげて並べてみると、大きいのや小さいのや、ななめのや、はては揉んだ紙に描いたのなどがあって、こんなことでいったい絵本になるのだろうかと、とたんに不安になります。それが不思議なことに、印刷されて本になると、原画とはちがう美しさが加わって、思いがけないことになるのです。
「ゆきのひのたんじょうび」巻頭言
書をはじめ多彩で多様な描法で表現されたちひろの絵本の世界は、印刷され絵本とされることで「原画とはちがう美しさ」を得、完成にいたります。印刷出版文化とりわけ高度な美術印刷の出現がちひろを後押ししたのです。
そして何より、子どもたちの未来、戦争も核兵器もない平和な世界を希求する日本共産党員としてのちひろの語りかけが聞こえてきます。

三宝寺池

美術館から北に向かった(約1キロメートル)のところにハケと雑木林で囲われた三宝寺池があります。
豊富な湧き水があった三宝寺池周辺では縄文時代から人の定住があり、竪穴式住居跡(池淵史跡公園内)が残され、発掘された土器が隣接の石神井公園ふるさと文化館で展示されています。
下って中世には、武家社会の成立を背景に、この地を支配していた豊島氏が石神井城を築城、拠点としました。さらに20世紀に入ると鉄道の敷設にあわせて日帰り行楽地として観光開発がすすめられることになり、100メートルプールや旅館や料亭などでにぎわうこととなりました。
三宝寺池には池を巡る周回路があり、空の宝石と呼ばれるカワセミも姿を見せます。「三宝寺池沼沢植物群落」は国の天然記念物指定。
そして石神井城趾の右手にあった料亭豊島館で日本共産党の臨時大会(1923年)が開かれ、天皇制軍国主義の支配に抗して「君主制の廃止」「18歳以上の普通選挙権」「8時間労働制」「完全な団結権の自由」などを掲げた党綱領草案が討議されました。来年は日本共産党の創立100周年にあたります。
末延渥史

東京民報2021年8月1日号より











