【書評】バナナの知られざる現状 『甘いバナナの苦い現実』石井正子 編著/アリッサ・パレデス/市橋秀夫/関根佳恵/田坂興亜/田中滋/野川未央著〈2021年9月19日号より〉

コモンズ 2020年 2500円+税 いしい・まさこ/ありっさ・ぱれです/いちはし・ひでお/せきね・かえ/たさか・こうあ/たなか・しげる/のがわ・みお

 私たちが最も多く食べている果物がバナナであるということにまず驚く。

 日本人のソウルフルーツであるりんごやミカンではないのだ。何故なのだろうか。

 1982年、日本人が当たり前のように食べているバナナが巨大資本と多国籍グループによって搾取された生産者の上に成り立っていることを明らかにした『バナナと日本人』(鶴見良行著)は私たちに衝撃を与えた。日本では生協組織などを中心に、安心―誰もが命を脅かされない環境で生産されていること、安全―危険な農薬まみれでないことを目指し、現地生産者と連帯しつつ数々の困難に直面しながらフェアトレード運動を展開してきた。あれから40年、事態は改善しただろうか?

 安いから、手軽だからと見て見ぬふりをしてきた私たちに7人の研究者が厳しい現実をつまびらかにする。フィリピン・ミンダナオ島でどのように栽培されているか、バナナ産業で働く人たちの過酷な現実、農薬散布の実態、多国籍アグリビジネスの形成、再編、戦略、バナナが食卓に届くまでの供給網の徹底解剖。そして現在、有機栽培やフェアトレードバナナは1%に満たない。売られている99%はドール(伊藤忠)、スミフル、デルモンテなど多国籍企業によるもの。農薬の使用状況や環境に対する影響、労働者の待遇など産地の情報を得られない。公開しないのだ。コーヒー、紅茶、カカオ、サトウキビ、綿のプランテーションも同じだという。

 それでも、フェアトレードから生まれた「認証ラベル」の手法は大企業も真似をして、またラベルの濫用をも引き起こしている。ということは消費者の目は無力ではない。著者は消費者にエシカル(倫理的)な視点を提案している。ただ安い、清潔だけでなくその背景にも目を凝らしてと。

 りんごやミカンは季節や天候によって価格は変動し手に入らないこともある。日本の農家さんのことを思えば高くなることもある。遠くフィリピンで作られるバナナはいつでも安く手に入る。私たちはバナナを食べたいのではなく食べさせられているのだと思わずにはいられない。(なかしまのぶこ 元図書館員)

(東京民報2021年9月19日号より)

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