【書評】コロナ禍での生き方を示唆 『ペスト時代を生きたシェイクスピア―その作品が現代に問うもの』川上重人 著〈9月19日号より〉

本の泉社 2021年 1200円(税込み) かわかみ・しげと 1950年生まれ。東京私大教連書記長・副委員長などを歴任。著書に「名作が躍る『資本論』の世界」など

 シェイクスピア(1564~1616年)が生きた時代は、感染症ペストが6度流行しました。

 人々は死の不安と生への妄執(もうしゅう)で苦しみもがいていました。しかし、シェイクスピアは、ペストを主題にした作品はまったく書いていないのです。

 著者はその事について、シェイクスピアは、「恐るべきペストを記録として残すというリアリズムではなく、人間をあるがままに描くことに重きを置いたのであろう」「人間を主題とし、その本質を捉えようとしていたのかもしれない」と分析、また、生涯をペストの恐怖の下で生きている観客に、「あえて疫病患者や病状そのものを語ることを避けたのであろう」と述べています。

 そして、シェイクスピアの作品(芝居)は、人々の不安や恐怖、そして苦悩を和らげ、明日へと生きる活力となったとして、『ジュリアス・シーザー』『マクベス』『リア王』『ハムレット』『夏の夜の夢』の五作品をわかりやすく読み解き、そこに描かれている政治的背景、人間群像などを舞台のせりふも紹介しながら示しています。

 著者は、その中で五作品には、社会、階級、格差のなかで葛藤する人間の姿、暴君や為政者の立ち位置、批判精神のあり方、人間の尊厳、自然と共生して生きることの大切さなどが描かれていることを解説しています。

 それはコロナの時代を生きる私たちに、大きな示唆を与えてくれるものです。

 一つ一つの作品でどう描かれているかは、本書をお読みください。

 一つだけ紹介すると、『リア王』の中で暴君の残虐な行為を、命懸けで「いまお控えを願うことが最上のご奉公」といさめる「シェイクスピアの偉大なる英雄の一人」と言われている「無名の召し使い」のことは大変印象的です。彼は生と死の間(はざま)で人間の尊厳を守ったのです。

 本書は今日のパンデミック時代におけるシェイクスピア作品の良き案内書です。

 この著作をお読み頂き、シェイクスピア作品を味わってみてください。

(柏木新・話芸史研究家)

(東京民報2021年9月19日号より)

関連記事

最近の記事

  1.  待機児童、介護離職、残業、都道電柱、満員電車、多摩格差、ペット殺処分。こう聞いて、すぐに共通点が…
  2.  「裏金事件」で自民党への批判と怒りが大きく広がるなか、公職選挙法違反事件で有罪が確定した柿沢未途…
  3. 球場とラグビー場の再生案を発表した会=10日、豊島区  神宮球場と秩父宮ラグビー場を取り壊し…
  4.  今年1月に起きた日本航空機と海上保安庁機の衝突事故をうけて11日、日本航空被解雇者労働組合(JH…
  5. 市議会本会議で初質問に立つ荒木市議  市議になる前は、33年間、都内の私立校で数学教員をして…

インスタグラム開設しました!

 

東京民報のインスタグラムを開設しました。
ぜひ、フォローをお願いします!

@tokyominpo

Instagram

#東京民報 12月10日号4面は「東京で楽しむ星の話」。今年の #ふたご座流星群 は、8年に一度の好条件といいます。
#横田基地 に所属する特殊作戦機CV22オスプレイが11月29日午後、鹿児島県の屋久島沖で墜落しました。#オスプレイ が死亡を伴う事故を起こしたのは、日本国内では初めて。住民団体からは「私たちの頭上を飛ぶなど、とんでもない」との声が上がっています。
老舗パチンコメーカーの株式会社西陣が、従業員が救済を申し立てた東京都労働委員会(#都労委)の審問期日の12月20日に依願退職に応じない者を解雇するとの通知を送付しました。労働組合は「寒空の中、放り出すのか」として不当解雇撤回の救済を申し立てました。
「汚染が #横田基地 から流出したことは明らかだ」―都議会公営企業会計決算委で、#斉藤まりこ 都議(#日本共産党)は、都の研究所の過去の調査などをもとに、横田基地が #PFAS の主要な汚染源だと明らかにし、都に立ち入り調査を求めました。【12月3日号掲載】
東京都教育委員会が #立川高校 の夜間定時制の生徒募集を2025年度に停止する方針を打ち出したことを受けて、「#立川高校定時制の廃校に反対する会」「立川高等学校芙蓉会」(定時制同窓会)などは11月24日、JR立川駅前(立川市)で、方針撤回を求める宣伝を21人が参加して行いました。
「(知事選を前に)税金を原資に、町会・自治会を使って知事の宣伝をしているのは明らかだ」―13日の決算特別委員会で、#日本共産党 の #原田あきら 都議は、#小池百合子 知事の顔写真と名前、メッセージを掲載した都の防災啓発チラシについて追及しました。
ページ上部へ戻る