【書評】競争社会と自己責任 『ひきこもっていても元気に生きる』高井逸史/藤本文朗/森下博/石井守 編著〈9月19日号より〉

新日本出版 2021年 1870円(税込み)たかい・いつし/ふじもと・ぶんろう/もりした・ひろし/いしい・まもる

 「ひきこもり」「不登校」といえば若年層の問題と捉えがちですが、内閣府の2018年の調査によると、ひきこもり状態にある人は、40~64歳までの中高年層で61万人(推計)、若年層54万人、合わせて115万人と日本社会の大きな問題です。

 「不登校」「ひきこもり」というと、怠けているとか甘えていると捉えられがちです。しかし、当事者やその家族、関係者はそうした見方の中でつらい思いをしています。この考えの根底には「学校へ行くのは当たり前」「働くのは当たり前」という考えがあり、「当たり前のことができていない」という劣等意識が強く働いています。そのため、外に出られるように、学校に行けるように、会社に行けるようにと働きかけることになります。ひどい場合は「プロの引き出し屋」が法外な費用を家族に請求したうえで、当事者を暴力的に家から引き出し精神科病院に入院させる人権侵害のケースまで出現しています。

 本書は、「怠け・甘え」とした考えを否定し、現代社会が「極端な競争社会」となり「強い者」がその他の者を圧迫するありようが学校・職場・地域社会、あるいは家族の中にさえ生まれていることを指摘しています。「自己責任」の強要に追い詰められつらくなった人が、自分を守るため「ひきこもる」しかなくなっているのが現状ではないかと指摘しています。

 大切なのは何を望んでいるのかの理解に努め、当事者が元気になるように支援することです。そのためには、多様な生き方があることを許容し当事者が楽に楽しく生きられることを尊重すべきと主張します。また、本書は当事者や家族が孤立することなくさまざまなグループや支援組織の力を借りるよう、多くの地域の事例や活動を紹介しています。さらに、精神科医療との関係や自殺予防にも目配りしています。

 近年は、「ひきこもり」への理解や対応も進みつつあります。しかし、長期間にわたるひきこもりが家族に生まれた場合、支援する家族は経済的にも大変です。さらに幅広い支援が望まれます。(フリーライター・松原定雄)

(東京民報2021年9月19日号より)

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