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時代の転換を現代に重ね 「玄朴と長英」を公演 嵐圭史さんに聞く〈10月31日号より〉
- 2021/10/25
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俳優の嵐圭史さんが舞台生活70周年全国巡演として「玄朴と長英」を、国立劇場小劇場などで公演します。4年前に前進座を離れ、再出発の舞台として昨年春に計画しながら、コロナ禍で中止を余儀なくされた公演です。作品に込める思いを聞きました。

幕末の史実をもとに
―どんな舞台ですか。
幕末の蘭学医、蘭学者の高野長英(嵐圭史さん)と伊東玄朴(オペラ歌手の池田直樹さん)が登場する二人芝居です。
玄朴と長英はともに、長崎にドイツ人医師のシーボルトが開いた私塾の俊才でした。
玄朴は、大名のお抱え医師に取り立てられ地位を確立します。他方、長英は、幕府の攘夷政策を批判して「蛮社の獄」でつかまり、終身刑で牢獄に入れられます。しかし6年後に、硝酸銀で自らの顔を焼いて、牢獄に火をつけて脱獄するんです。
ここまでは史実、ここから先は作者のフィクションです。脱獄の2日後、突如として長英が玄朴の書斎にあらわれ、逃亡資金の提供を頼むところから、舞台が開きます。幕府を批判して政治犯となった長英と、幕藩体制のもとで名声を得て生きる玄朴、二人の緊張に満ちた議論をそのまま切り取った、1時間10分の論争劇です。
―大正末期に書かれた作品だそうですね。
この作品を真山青果先生(1878~1948)が書かれたのは、大正13(1924)年です。
前年に関東大震災が起き、翌年には治安維持法が制定されます。関東大震災の時に共産党員の川合義虎が虐殺されるなど、大正デモクラシーの時代から言論封殺の時代への転換の時期です。
弾圧の時代を前にした良心の残り火
私は今、映画「わが青春つきるとも 伊藤千代子の生涯」(現在、撮影中)を多くの若い人たちに見てもらいたくて、勝手連で微力を尽くしています。伊藤千代子は社会変革を求めて活動し、治安維持法の下で日本共産党の女性党員で最初の獄死者となりました。24歳の若さで、ですよ!。
この映画に関わるなかで、私自身、「玄朴と長英」のセリフの意味が深まってきました。
幕末の転換期にあって長英は、新しい日本社会が来ることを、確信をもって語ります。自身の地位と名声を守ろうとする玄朴も、ヨーロッパに生まれた、すべての個人が平等の法治国家を感動をもって語るんです。
大正末の転換期に、真山青果先生はあえて、こうしたセリフを書かれた。この作品は言論弾圧の時代が始まる前夜の、作家としての最後の良心の残り火と言えましょう。
新たな創造の出発として
―コロナ禍も時代の転換期となりそうです。
コロナ禍のなかで、多くの人がもやもや感を抱き、時代が変わっていかざるを得ないという共有意識を持っていると思います。幕末と大正末期、そして現代という三つの時代の転換期が、この作品で重なる。コロナ後に来たるべき時代がどのようにあるべきか、新たな時代へのメッセージを投げかける作品として、いま演じる大きな意味を感じています。
―昨年、公演の予定でしたが、コロナ禍ですべて中止になりました。
前進座にとっては、真山青果先生はたくさんの大事な作品を与えてくださった恩人です。私自身も、多くの作品に出演させていただき、鍛えられました。
77歳で前進座を離れて、昨年80歳を迎え、この作品を出発点にして新たな創造活動を始めるつもりでした。その船出は、見事に難破しました(笑)。再び取り組めるのは、多くの人の支えがあってこそです。
市民と野党の共闘で、新しい時代を切り開く、大切な総選挙(31日投票)です。ぜひ素晴らしい結果を出して、その喜びを胸に、多くの人にこの舞台を見ていただければと願っています。
(東京民報2021年10月31日号より)