交通の円滑化と防災を名目に、多くの住民を立ち退かせて道路をつくる特定整備路線・都道補助29号線の事業認可取り消しを求める裁判が、大詰めを迎えています。第11回口頭弁論が9日に東京地方裁判所で開かれ、防災対策や都市計画の専門家・中村八郎氏が証人として立ちました。

補助29号線は、東京都が進める特定整備路線(28区間、延べ約25㌔)のひとつで、品川区大崎3丁目から大田区東馬込2丁目まで、南北に約3・5㌔の道路建設が進められています。道路幅は約20㍍。両隣約30㍍の沿道にそれぞれ耐火建築物等を建てることで、延焼遮断帯の効果が期待できると都は主張しています。しかし、この道路により4つの商店街や防災機能を持つ広場・公園などが影響を受け、550棟、4000世帯以上が立ち退きを迫られることになります。
飛び火を考慮しない都のシミュレーション
今年1月20日に元建設局木密路線整備推進課長の証人尋問が行われ、都の延焼遮断帯構想には専門家の意見が反映されていないことが判明。さらに、都が証拠で提出した延焼シミュレーションは、延焼過程を考える上で欠かせない要件である飛び火の影響が考慮されていないこと、気象条件などが極めて限定的なこと、目的が異なる東京消防庁のデータを採用していることなど、多数の問題点が明らかになりました。
担当課長の証言を踏まえ、今回の口頭弁論では「補助29号線に防災効果はあるのか」「都が証拠で提出した延焼シミュレーションは信頼に足るものか」という判決の肝になるとみられる2点にテーマを絞り、弁護団は中村氏に尋問しました。
阪神・淡路大震災では
延焼遮断帯の効果について、中村氏は過去の震災や大火を例に説明。1995年1月に発生した阪神・淡路大震災は無風地帯でありながら、出火地域から100㍍前後まで飛び火が影響した実態を証言。担当課長は12㍍の道路が焼け止まりの要因になったと述べていますが、中村氏は道路ではなく消防力が考慮されていない欠点を指摘しました。
また、沿道30㍍につくられる不燃建築帯について、一帯の連続した建築物ではなく、形態、大きさ、高さも違うため、建物と建物の隙間から市街地火災の熱風や火の粉が舞い込むとして、「(道路と沿道の合計)幅80㍍の延焼遮断帯ではとうてい火災を防げない」と答えました。
延焼シミュレーションについて中村氏は、「飛び火を想定していないと、極めて延焼範囲が小さくなる」と断言。「飛び火を考慮すると都にとって不都合が起こるのではと、思わざるをえない」と推測しました。
実際、東京消防庁は2016年12月に起きた新潟県糸魚川市の大規模火災で飛び火の危険性を見直し、2018年度~20年度にかけて、飛び火を考慮できる延焼シミュレーションシステムに機能を向上しています。
地域の耐震・不燃化こそ
最後に中村氏は、住民と自治体が連携し、防災機能を備えた公園をつくる、水栓の場所を木密地域のエリアに増やすなど、道路計画の莫大な予算(600億円)を地域の耐震・不燃化に回せば、より経済的で合理的な安心できる街づくりができると述べました。

閉廷後、原告団長の池戸アキコ氏は「震災や大火の調査に基づく飛び火や延焼について、意義ある証言だった。公園や広場をつぶす29号線の不合理性をさらに訴えたい」と決意表明。報告会では、道路問題しながわ連絡会の原田泰雄代表が「国や都の道路行政が、いかに住民の幸福追求の権利に反するか裁判を通して明らかになっている。行政のあり方を問う意義あるたたかい」と語りました。
次回の裁判は12月15日、結審の予定です。
(東京民報2021年9月19日号より)