【アーカイブ連載】妊娠葛藤相談の現場から①孤立に追い込むのは〈2021年3月14日号より〉

 皆さんは「妊娠葛藤」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。妊娠葛藤とは、「妊娠したかもしれない」「妊娠してしまったが、どうしてよいかわからない」など、妊娠におけるさまざまな葛藤をさす言葉です。

 厚生労働省発表の「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」(第15次)によると、子ども虐待による死亡事例の年齢別内訳は0歳児が最多です。中でも生まれたその日に亡くなる日齢0日死亡が最も多く、加害者となってしまった実母の多くは、母子健康手帳が未発行、妊婦健康診査未受診、医療機関ではなく、自宅のトイレや風呂場で誰の支援もない状態で出産しています。そして日齢0日死亡事例においては、母親が若年層である割合が顕著に高いことがわかっています。

 私たちピッコラーレは、「思いがけない妊娠を誰にも言えずに葛藤している女性たちが、安心して相談できる支援窓口を東京にも」との思いから、2015年12月に妊娠葛藤相談窓口「にんしんSOS東京」を開設しました。「にんしんにまつわる全ての困った・どうしように寄り添う」ことをミッションに、年中無休で電話とメールで相談を受け付けています。窓口開設以来これまで4275人、延べ2万3609件の相談やり取りを行っています(2020年12月31日現在)。

 2020年の相談者は、10代が約50%、20代が約30%と若年層から多くの相談が寄せられています。約70%は「コンドームが外れてしまって、妊娠していないか不安」といった避妊の失敗や月経の遅れなどによる「妊娠したかもしれない」という相談、約20%が「妊娠してしまったが、どうしてよいかわからない」といった「思いがけない妊娠」の相談です。

 「当窓口以外の誰かに相談しましたか?」という質問に、60%を超える相談者が「誰にも相談していない」と回答しています。「誰にも言えない」の背景に耳を傾けると、「親との関係が悪い」「親に心配かけたくない」「相手に迷惑をかけたくない」「相手に言ったら逃げられると思う」「自分も悪かった」といった声が聞こえてきます。

 それらの声は、裏返せば、妊娠は一人でできないにも関わらず、自分一人でなんとかしなければならない「自己責任」の問題だと、社会から強く思い込まされているとも言えないでしょうか。彼らの声を聞けば聞くほど、妊娠に思い悩み、身近な人たちにも相談できず、孤立する状況に追い込んでいるのは、私たち社会ではないのか、そう強く思わざるを得ません。(特定非営利活動法人ピッコラーレ事務局長 小野晴香)

(東京民報2021年3月14日号より)

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