【アーカイブ】喜劇の喜びあふれる舞台に 前進座「一万石の恋」 山田洋次監督と新作公演 お殿様の切ない恋と 長屋の面々の大騒動〈2021年9月26日号より〉

 前進座は創立90周年記念の錦秋公演として、10月8日から新国立劇場・中劇場などで、「一万石の恋 裏長屋騒動記 愛の仮名手本篇」を上演します。2017年に公演した「裏長屋騒動記」に続き、映画監督の山田洋次さんと前進座がつくる、落語をもとにした新作舞台です。12日には調布市で、山田監督も参加してイベント「前進座芝居塾」が開かれました。

落語の妾馬を題材に

 今回、題材となるのは、古典落語の「妾馬(めかうま)」です。

 落語では、長屋の娘お鶴がお殿様に見そめられ、側室となって世継ぎを産んだことで、遊び人の兄・八五郎が家臣に取り立てられて出世します。

 舞台では、一万石の弱小藩のお殿様が、たまたま見かけたお鶴に片思いするものの、お鶴には将来を約束した若者がいて、「あの人と一緒になれないなら私は死ぬよ」と、お殿様との結婚を拒否します。

 「芝居塾」では、落語家の春風亭一之輔さんが、妾馬を披露。そのあと、山田監督とミニトークで対談しました。

落語「妾馬」について語り合う一之輔さん(左)と山田監督

 一之輔さんが「妾馬を師匠から習った時、妹を持つ兄として、『男はつらいよ』の寅さんの気持ちになってやるのが一番いいんじゃないか、とアドバイスを受けました」と話すと、山田監督は「寅さんの映画を最初に考えた時、この映画のテーマはなんだろうと考えました。寅という男が、妹を幸せにしたいと思っている、それを何よりも願って行動する、それが全体の背骨だろうと思ったんです」と振り返りました。

 落語と異なる物語にした理由を山田監督は、「現代の感覚でいうと、どうしても、妾になる、それを兄貴が喜ぶというのが納得がいかない。もし、妹に恋人がいて、絶対に嫌だと言ったらどうなるだろう。中には、こういう娘もいたんじゃないかと思うんですね」と話しました。

 一之輔さんも、「落語では、お鶴さんの気持ちはほとんど出てこない。一応、喜んでいる、となっているけど、本当はどうだったんだろうと、僕らも考えますね。好きだった人もいただろうし。そう考えたほうが、落語も深みが出るんじゃないかな」と応じました。

 舞台では、お芝居好きで風変わりなお殿様の切ない恋の物語とともに、殿様の申し出を断ったら大変なことになるのでは、と心配する面々が「奇策」を案じたことによる、長屋中を巻き込んでの大騒動が描かれます。

劇場全体を笑いに

 続いて出演者が登壇し、意気込みを語りました。

上演への意気込みを語った(左上から時計回りに)新村さん、嵐さん、有田さん、河原崎さん、山田監督、藤川さん=12日、調布市

 お鶴を演じる有田佳代さんは、「前作の裏長屋騒動記の時、お客様がたくさん笑ってくださり、劇場が笑っているようでした。その時以上の、楽しい舞台になるようがんばります」とあいさつ。 恋の相手となる清吉を演じる新村宗二郎さんは、「お鶴ちゃんが清吉を選んでくれた、その思いを大切にして、さわやかな恋愛模様をお届けしたいと思います」と語りました。

 兄・八五郎を演じるのは、嵐芳三郎さん。「前作の時にも、監督にしっかり絞っていただきました。今回も、自分のダメだしのみならず、人のダメだしの時も、監督の一言一句を聞き洩らさず、すべて勉強したい」と意気込みました。

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