【アーカイブ】支援届かぬ母子の暮らし 離婚未成立、制度のはざま〈2021年1月24日号より〉
- 2022/2/24
- ジェンダー問題
コロナ禍によりパート・アルバイト女性の実質失業者が90万人といわれ、母子家庭の貧困、中でも離婚が未成立の世帯の貧困は深刻さを増しています。こうした「プレシングルマザー」の存在は、国が統計を取ることもなく放置され、行政からひとり親家庭向けの支援がほぼ得られません。当事者の「自助」だけで立ち上がることのできない事情と、思いを取材しました。
西日本に住む40代の女性は保育園に通う年子2人を1人で育てています。子どもたちはともに乳幼児健診で「元気が良すぎる子(多動児)」と指摘され、障害児認定ではグレー診断を受け、療育施設に不定期で週に2~3回通っています。
夫は警察が介入するほどのDV(ドメスティックバイオレンス)を彼女に向け、刃物を手にする夫から裸足で乳飲み子を抱え逃げだしました。実家に戻り弁護士を介して離婚調停を準備する間に、夫は音信不通になり戸籍上は夫婦のままです。婚姻費用も養育費も支払われたことはなく、「(子どもの)連れ去り」と主張していました。
女性はDVの後遺症で精神を病み、通院を欠かすことができず、就労も厳しく金銭収入が1円もありません。独身時代の貯蓄を取り崩して1年半以上暮らしてきました。
市役所で門前払い
新型コロナによる1人あたり10万円の臨時特別給付金はなんとか受け取れましたが、ひとり親世帯の臨時特別給付金は支給要件に「児童扶養手当受給」があるために対象からはじかれています。
実質的に母子家庭でも離婚が成立しないために、役所の窓口で児童扶養手当の申請書さえもらえない人は潜在的に多くいます。“生活保護の水際作戦”と同じという当事者の声もSNS(ソーシャルネットワーキング)などでは散見します。

女性も市役所の窓口で用紙をもらえなかった1人です。女性が「精神障害者手帳の申請を視野に入れている」と言うと、市職員は「だったら無理です」と突っぱねました。「シングルマザーとしても認められない。婚姻生活も成立しない。貯蓄は、あと1年もたない。これから先をどうしよう」と女性は自分を責め続けています。病状に悪影響を及ぼしています。
ケースワーカーや社会保険労務士が女性を支援し、再度、市役所に児童扶養手当の申請に行きました。
市職員は「障害年金受給者は一律で児童扶養手当の申請を受け付けていない」と、門前払いにした理由を明らかにしました。さらに「障害年金が過去5年に遡及そきゅうして支払われることもある。その時は受け取った手当は返還となる。ゆえに申請は保留」としたのです。
「自立して第一歩を踏み出そうとして出鼻をくじかれた。なぜ、市職員に精神疾患を馬鹿にされたようにまで言われなくてはいけないのか」と女性は涙をこらえて語りました。「離婚が成立しない、させてもらえない方々に同じ思いをさせたくない。制度のはざまにいる者を知って救済して欲しい」と訴えます。
実態に要件合わず
女性は親の所有する二世帯住宅に家賃を支払って住んでいます。生活費は切り詰めて月に12万円ほど、生活保護の基準未満の生活をしています。「冬の着替えも2着しかなくて恥ずかしい」と切り詰めた生活をしていることがうかがえます。
児童扶養手当は国の制度で、児童扶養手当法を根拠に運用され、厚労省のホームページでは「悪意の遺棄」として金銭的援助のない場合は支給要件です。しかし「(DVの場合)裁判所より保護請求が出された場合」とも記載されており、精神的な苦痛を与えるモラルハラスメントなどは想定されず、実態に即していません。自治体によっては「家庭不和や離婚を前提とした別居は該当しない」とするところもあり、都内でも自治体格差や支給へのハードルが高く、現況届の提出時にプライバシーの侵害がおきていることが明らかです。
子どもの貧困がより深刻になっている今、子どもの権利擁護を軸に全国一律に対応の改善が急がれます。
(東京民報2021年1月24日号より)