新たな人物像、ユニークに 芥川龍之介生誕130年 北区 田端文士村記念館が記念展〈2022年3月13日号〉

 今年は日本近代文学を代表する作家、芥川龍之介(1892~1927)の生誕130年、没後95年に当たります。芥川が1914(大正3)年(当時22歳)から35歳で自死に至るまで居住したのは、現在の北区田端。同区の田端文士村記念館で、記念展が開かれています。

田端文士村記念館

 田端はもともと若い芸術家たちが集う〝芸術家村〟の観がありましたが、芥川の転入、その2年後に詩人で小説家の室生(むろう)犀星(さいせい)(1889~1962)が移住してきたことを契機に、彼らの友人や弟子の文士が居を構えるようになり、〝文士芸術家村〟の様相を呈しました。

 2022年は室生の没後60年でもあり、田端文士村記念館は『芸術家村だった田端を文士芸術家村にした二大巨頭について比べてみました(略してバタクラ?)』と題した記念展を5月8日まで開催。生涯の友となる2人の共通点や相違点、プライベートなどを計104点の展示資料からひも解き、新たな人物像に迫ります。

 2人の出会いは1918年に日本橋で開催された、詩人・日夏(ひなつ)耿之介(こうのすけ)の出版記念会。田端への帰宅時に会話を交わし、交流が始まりました。

 芥川は3月1日、辰年辰月辰日辰刻に現・中央区明石町に誕生。母の病によって生後7カ月で母の実家・芥川家の養子となり、現・墨田区両国で過ごしました。石川県金沢市で生まれた室生は婚外子で、住職の室生家に養子として入ります。

 ともに複雑な家庭環境にあり、芥川は大川(隅田川)、室生は犀川の水辺で育った原風景が影響したのか、2人は水にまつわる雅号を持ち、水生生物を描いた作品が存在。芥川の小説「河童」は有名です。同展では「水友」という造語で表現しています。

 共通の趣味は句作。一緒に俳句をつくる「俳友」でもありました。芥川は小説だけでなく、生前に約1000の俳句を詠んでいます。1925(大正14年)に雑誌「改造」に発表した芥川直筆の句稿「鄰(となり)の笛」は、今回が初公開となる貴重な資料です。

 同時期に子どもを授かった2人は、子どもの成長や家族について話しをする「パパ友」でもありました。子育ての姿勢は異なり、芥川は放任主義。一方、室生は子どもに温かい弁当を食べてもらうために昼間学校に届けさせるという溺愛ぶりでした。

今回初公開となる、芥川龍之介「鄰(となり)の笛」原稿

 弟子への指導について、理論派の芥川は具体的なアドバイスを与え、感情肌の室生は抽象的に助言するタイプ。そのほか、嗜好品や体格、服装など、彼らのプライベートをユニークに紹介しています。当展の担当者、館長補佐の石川士朗氏は「それぞれの作品を読むきっかけになるとうれしい。展示を見て、ニコッと笑顔で帰っていただきたい」と語ります。

 同時に、芥川の命日7月24まで、「太宰治展示室 三鷹の此の小さい家(三鷹市)」、「新宿歴史博物館(新宿区)」、同館の協働企画展示「芥川龍之介と太宰治」も開催。芥川に思慕した小説家の太宰治(1909~1948)、太宰に心酔した芥川の長男で俳優・演出家の比呂志(1920?1981)のエピソードを交え、芥川と太宰を多角的に紹介しています。

新資料で変わる芥川像 都留文科大名誉教授 関口安義さん

 芥川龍之介研究の第一人者として知られる都留文科大学の関口安義名誉教授によると、新資料の出現により研究が進み、芥川の評価は変遷しているといいます。

 長らく芥川のイメージは孤独で陰鬱(いんうつ)、政治や社会に無関心という否定的な人物像が固定化されていましたが、関口氏は「芥川は絶えず時代への誠実な目を持ち、時代と闘い、時代を拓く人であった」と指摘します。

関口安義(せきぐち・やすよし)1935年、埼玉県生まれ。芥川龍之介研究の第一人者。都留文科大学名誉教授、文学博士。著書に『世界文学としての芥川龍之介』『評伝 矢内原忠雄』ほか多数。2月に新刊『生誕一三〇年・没後九五年 時代を拓く芥川龍之介(新日本出版社)』出版

 芥川の研究は、彼と旧制の第一高等学校(一高)で同期の恒藤恭(法哲学者)、成瀬正一(フランス文学者)、松岡譲(小説家)、矢内原忠雄(経済学者)久米正雄(小説家、劇作家、俳人)など、学友らの日記や書簡が発見されたことから前進しました。芥川らが一高に入学した1910(明治43)年5月に勃発した社会主義者や無政府主義者に対する弾圧事件「大逆事件」について、翌年2月に徳冨蘆花が一高の講堂で「謀叛論」という演題で講演。講演内容は政府への強い批判で、蘆花は「諸君、謀叛を恐れてはならぬ。新しいものは常に謀叛である」と雄弁をふるったのです。

中国旅行記鋭い視点で

 謀叛論は生徒に大きな影響を与えたことが、近年発掘された彼らの日記から判明。芥川も蘆花の講演を聞いたと推測され、「『羅生門』にもその影響が表れている」と関口氏は話します。

 芥川は日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦を体験。1921(大正10)年に4カ月間、中国視察旅行に出かけ、中国各地を精力的にめぐりながら鋭い視点でメモを取り、帰国後『支那游記』にまとめました。厳しい検閲との闘いの末に完成した『支那游記』は異なる3人の中国人訳者によって翻訳され、歴史的価値のある文献として評価されています。

 1923年9月には関東大震災に襲われ、芥川は町会の自警団に加わり、自警団による朝鮮人迫害を「或自警団員の言葉」(「文藝春秋」1923年)に書いて痛烈に批判。「将軍」や「桃太郎」などの小説にも、反戦思想が宿っていると指摘します。

 関口氏は「芥川が体験した戦争や関東大震災、スペイン風邪といった疫病は、現在のウクライナ問題、東日本大震災、コロナ禍と類似している。先人として芥川はどう生き抜いたのか、それを検証していくことは今を生きることにもつながるだろう」と語ります。

(東京民報2022年3月13日号より)

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