【アーカイブ】編集長インタビュー 俳優 宝田明さん ゴジラに託した核廃絶 戦争の痛み忘れるな〈2014年7月6日号より〉
- 2022/3/18
- 文化・芸術・暮らし
怪獣王ゴジラがスクリーンに登場して、今年で60年目を迎えます。その第1作が最新技術で修復されて公開され、7月にはハリウッド版最新作も日本に登場します。1954年のゴジラ公開と同じ年にデビューし第1作に主演した俳優の宝田明さんは、国会でこそ、この作品を見てほしいと語ります。 (荒金哲)
―第1作を修復したデジタルリマスター版の公開で、スクリーンのゴジラと久しぶりの対面でしたね。
大変な労力と時間をかけて一コマずつ傷を直し、色調を整えて、まさに初演時の作品が復活していました。60年前も思ったのですが、モノクロの映画だけに、黒にもいろんな黒があるし、白にも実に濃淡がある。まるで中国の水墨画なり、あるいは光と闇の対比が見事なレンブラントの絵を見るようです。
当時、ゴジラをつくった撮影技師や照明技師、それに本編の本多猪四郎監督や、特撮の円谷英二監督が素晴らしい匠(たくみ)だったことを改めて感じました。

―ハリウッド版も公開が間近です。
アメリカでは公開されているので、仕事で行ったニューヨークとダラスで見てきました。良い出来でしたよ。
どんな形でゴジラが登場するのかと見ていると、最初に出てきた時、劇場のお客さんが一斉に立ってバーっと拍手が沸き起こるんです。アメリカの人たちの心の中にも、ゴジラがヒーローとして住みついている。うれしかったですね。
海に沈むゴジラに涙が
―60年たったいまも、ゴジラが愛され続けているのはなぜでしょう。
1954年といえば、戦争の終結から9年で、少し戦争の記憶が薄れかけてきたころです。その年の3月、ビキニ環礁で第五福竜丸が被ばくし、またも日本人は核の脅威にさらされました。
プロデューサーの田中友幸氏が、海の底にいる動物が目覚めて、人間に鉄槌をふるうために上陸してきたら、と考えられたことがこの映画の出発点でした。そこからして、単純な怪獣映画にはなりえなかったんです。
映画が完成して試写で見たとき、最後にゴジラが科学兵器で倒され、海に沈んでいくところで、涙が止まりませんでした。水爆実験で眠りから起こされたゴジラも、単なるデストロイヤー(破壊者)ではなく被害者なのに、なぜ人間があそこまで痛めつけるのか、と。
そういうキャラクターだったからこそ、当時の日本の人口の1割を超える960万人を動員し、多くの人に受け入れられたのだと思います。
憲法9条は世界の宝
―単純な恐怖の存在ではないんですね。
日本ではいま、集団的自衛権を行使容認しようという動きがありますね。
日本人は、世界に冠たる憲法9条で戦争を永久に放棄した。あれは人類のための経典のようなものだと思います。
私にとってゴジラは、神格化はしたくないけど、神の使者のようなところがあると思えてならない。ゴジラを水爆実験で目覚めさせた米ソの東西冷戦は終わりましたが、今度は南北や宗教による争いを続けています。もし、人類が憲法9条が指し示すような平和の道を探求せず、醜い戦争を続け、無辜むこの国民を巻き込んでいたら、ゴジラが聖獣として、ますます強大な存在になって、鉄槌をふるうために出てくると思えてならないですね。

ゴジラ第一作を国会で
―集団的自衛権行使容認を進める安倍晋三首相が、ゴジラ映画と同じ1954年生まれです。
そう、安倍さんは60歳?。それにしては力みすぎだねー(笑)。
―力みすぎ、ですか。
というのはね、戦争を知らない世代なんですよ、今の政治家の8割、9割が。戦争の痛み、むごさを忘れてしまっている。
私も戦争が終わって満州から引き揚げるなかで、ご婦人方がソ連兵に辱められる姿を見たり、本当に苦労しました。
他の国にいきり立つのは恰好が良いかもしれないが、政治家には戦争を絶対にしない、平和に徹することにこそ情熱を燃やしてもらわないと。
だから私は、国会でこそ、ゴジラ第1作を上映してくれと言っているんです。核の被害を受けた日本が、ゴジラに託して60年前に堂々と言わんとしたこと、この映画に込めた不戦や核廃絶への痛切な思いを、もう一度彼らの心の中に持ってほしいんです。
◇
(インタビュー後記)「生意気を言いまして」―インタビュー直後の宝田さんの言葉です。続いて立ち姿の撮影をお願いすると、自ら「じゃあゴジラ持とうか」と、ゴジラの大型模型を手に。
いつも気さくで謙虚な大スターのにこやかな顔が、ぐっと引き締まったのが「政治家が戦争のむごさを忘れている」と話された時です。その言葉がずしりと胸に響きました。
(東京民報2014年7月6日号より)
〈Web版追記=2022年3月18日〉俳優の宝田明さんが3月14日に亡くなりました。生前、取材やインタビューなどで東京民報に登場していただいた記事のうち、2014年7月6日号の編集長インタビューをアーカイブ公開します