国分寺市から世田谷区へ流れる野川(*)について、1982年に河川の改修計画が策定されながらいまだに未着手となっている最上流部の国分寺区間、約1750㍍を自然に親しめる水辺として早期整備を求める住民運動が広がっています。昨年3月に住民有志が立ち上げた「野川復活1万人署名市民連絡会」は12月7日、都議会議長あてに護岸整備の早急な実施を求める陳情とともに、1万3918人の署名を提出。陳情は2月14日に開かれた都議会の環境・建設委員会で、全会一致で趣旨採択されました。
都は戦後の市街化に伴い、野川の下流から改修に着手。1982年に1時間あたり50㍉規模の降雨に対応できる野川流域の河川整備計画が策定されました。
1997年の河川法改正により、河川整備は治水や利水の機能を持たせるだけでなく、水質、景観、生態系といった河川環境の整備と保全も目的化。多種多様な生物の生息・生育環境やうるおいのある水辺空間の整備・保全、地域の風土と文化を形成する個性豊かな川づくりが求められるようになりました。都が提案する「野川流域河川整備計画」には、「野川流域の環境を地域の貴重な財産として次世代へ継承すること」が基本理念として明示されています。
これらに基づき改修がおおむね完了した小金井市から下流の地域は、貴重種を含む多種多様な鳥や昆虫、魚、草花などの動植物が生息する親水性の高い理想的な水辺の自然環境が続き、ウォーキングや散歩を楽しむ人の姿が見られます。
一方、国分寺市を流れる野川は、老朽化した無機質なコンクリート三面張りの狭い水路。周囲には住宅が密集し、地震による崩落を心配する声も上がっています。市の境にある鞍尾根橋から国分寺市と小金井市を見比べると、景観の違いは歴然としています。


都内で貴重な再生可能エリア
国分寺市も毎年1度、都に対して河川整備の促進を要望していますが、過去30年間は川からの溢水による浸水被害が発生していないので緊急性が低いとみなされ、手つかずのまま。計画流量に対して流下能力が不足した状態であり、近年の気候変動による各地の豪雨災害を考えると、危険な状態と推測できます。
この状況を見かねた同市在住の龍神瑞穂、前澤宏の両氏が、連絡会を発足。仲間に呼びかけ、町内会の回覧板を利用したり、駅頭に立ったりして、約1万4千人分の署名を集めました。護岸整備は4㍍ほどの川幅を約20㍍に拡幅するため立ち退きが生じますが、該当区域の住民の多くが危険性を理解し、いつまでも家の建て替えができないなどの理由から、署名に協力しています。
龍神氏は「緑と水の連続性により、豊かな生態系の回復が図られ、生物の多様性が保全される。生物が生きられる場所は、人間にとっても生きやすい場所」と指摘。前澤氏は「河川整備により約4万平方㍍の緑地ができる。素晴らしいと思いませんか。我々は孫のために活動を続ける」と話します。
野川の現状や課題をより多くの市民に知ってもらうため、今後は市との協働事業として、市内の小学校で野川を取り上げる授業の実施が決定。そのほか、大人を対象にした野川についての勉強会や、川の散策など、野川に関心を持ってもらうための様々な活動を計画中です。「国分寺は都内で多自然の環境づくりができる大切な地域。野川の魅力を未来へ伝えたい」と、両氏は強い思いを語ります。
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野川 都が管理する、全長約20.2㌔の一級河川で、国分寺市を流れる唯一の川。国分寺市東恋ヶ窪の大池を源流とし、10万年以上の歳月をかけて多摩川が武蔵野台地を侵食することで誕生した崖の連なり「国分寺崖線」の湧水を集めながら、小金井市、三鷹市、調布市、狛江市を経て、世田谷区二子玉川付近で多摩川に合流します。
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〈東京民報2022年3月20日号より〉