【書評】日本社会の病毒に迫る 『コロナ後の世界』 内田樹 著

 新型コロナによるパンデミックで可視化された日本社会の「病毒」に迫った論考です。

 「隣組と攻撃性」では、外出自粛要請を受け、市民が市民を攻撃する「自粛警察」等を論じます。これは、「そういうことが許される社会的な空気」を彼らが感知しているからであり、戦地で人間はとてつもなく残虐になれるというのに似ているといいます。嫌韓・嫌中等の国際的ヘイトもこの流れであり「自分は正義を執行している」と思っているのだと指摘します。

 安倍政権の7年8カ月の総括として「知性と倫理性を著しく欠いた首相が長期に政権にあったせいで、国力が著しく衰微した時代」だと答えています。「人間は他者からの敬意を糧にして生きる存在である」。しかし、安倍政権は「自分だけ、自分の縁故者だけ」「今だけ」のために権力を乱用しました。このように尊敬されない国家は国民にとって「生きている気がしない国」になっているのです。

文芸春秋社 2021年 1500円+税 うちだ・たつる 1950年生まれ。神戸女学院大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論など

 「Ⅱ揺らぐ国際社会」では、米大統領選挙の総括の中で、アメリカが19世紀末まで世界の社会主義運動の中心地であったことなど意外な事実も紹介されています。また、「中国はこれからどうなるのか?」の論考は、地政学的・歴史的な中国論です。日本でのジャーナリズムの論調とは異なったユニークな視点から中国を論じています。

 「Ⅲ反知性主義と時間」では、菅政権による日本学術会議新会員任命拒否問題を取り上げ、「今回の暴挙は我が国の学術的発信力を劣化させる」と警鐘を鳴らしています。その目的は、政府の方針に反対する者の口をふさぐことによる「統治コストの最小化」。権力運営が新自由主義的な経済運営と軌を一にする方針により貫かれていることを見抜いています。こうした、統治者の反知性的態度は、「日本にはもう国家目標がない」という痛苦な事実に由来することを指摘します。

 幅広くかつ歴史を踏まえた深い思索から、今日の日本について「なるほど」と腑に落ちる多くの貴重な考察がちりばめられています。

 少し難しいかもしれませんが、「精読」したい本です。(松原定雄・ライター)

(東京民報2021年12月19日号より)

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