最後に、震災にどう備えるかです。重要なのが、防災リテラシーという考え方です。リテラシーとは、正しく読み書きができる能力で、現代社会で生きていくために必須の能力です。防災リテラシーも、正しく防災を理解する能力で、災害から生き延びるために必須の力です。より良い社会と生活のために、自分のこととして防災に取り組むための基本的な知識が防災リテラシーです。
日本は災害が多いといっても、直接に体験することは多くありません。自身で経験しなくても、周辺地域や過去に起きた災害について学ぶことはできます。それが防災リテラシーの基本です。私は東日本大震災が起きた3月11日を「防災教育と災害伝承の日」にするよう提唱する取り組みで、呼びかけ人を務めています。ぜひご賛同ください。
1995年に阪神大震災が起きる前、関西では強い地震は発生しないという、科学的根拠のない風聞が広がっていました。科学的データを示そうと、国の地震調査研究推進本部が地震動予測地図をつくり、2005年から公表しています。最新版は2020年版です。この予測地図で最も色が濃い場所は、30年以内に震度6弱以上の地震が26%以上の確率で起きる場所です。交通事故で30年以内に負傷する確率は12%、火災に遭う確率は0・94%です。これに比べても、耐震化されていない建物が被害を受ける、震度6弱の地震に遭う可能性ははるかに高いのです。
防災科学技術研究所の地震ハザードステーションというウェブページでは、職場や住居の住所から、地震が起きる確率を調べることができます。
地震への備えで、まずやっていただきたいことは、耐震化です。
日本では、1981年に建築基準法の耐震基準が変わり、それ以前を旧耐震、以降を新耐震と呼びます。この新耐震になった建物を耐震化された建物と呼んでいます。
日本全体で8割ほどが耐震化されており、東京では9割です。これを100%にすると、首都直下地震の際の死者の数を15%ほどまで減らすことができます。初期消火などの訓練や、家具の転倒防止も重要です。
新型コロナの感染拡大など「不確実性が増大する時代」である現代は、首都直下地震や南海トラフ地震の発生などの不確実性も増しています。東日本大震災の自然現象としての影響も残っています。地震や極端気象、感染症など複合災害への備えも必要です。これまで以上に、普段からの災害への備えが重要になっているのです。=終わり
防災科学技術研究所参与・東京大学名誉教授・平田直
※連載は9月17日の関東大震災メモリアルシンポでの講演を再構成して紹介しました
(東京民報2021年11月7日号より)