多摩川風致地区や鳥獣保護地区に指定されている多摩川沿いの住宅地、世田谷区玉川で、マンション建設をめぐり環境保全の観点や建設事業者の不誠実な態度への不信感から、住民が反対の声を上げています。
かつて葛飾北斎が富岳百景に描いたように、多摩川周辺は松林が広がり、桜並木や竹林などの植物に恵まれた緑豊かな地域でした。
2000年に総面積約11.2ヘクタールにわたる大規模な二子玉川東地区市街地再開発が定められ、東急・二子玉川駅の東側に高さ100メートルを超す巨大ビルが登場。都市化が進み、街は様変わりし、多くの自然が消失しました。
問題のマンションは、不動産会社の環境ステーション(中央区)が建築主となっている5階建て(高さ14.7メートル)、ワンルーム29戸の建築物。河川沿いの道路を正面に、三方は2階建ての住居に囲まれています。第二種風致地区に当たるため、「周辺建造物群のスカイラインとの調和に配慮し、著しく突出した高さの建造物は避ける」など、細かい建築基準が区で決められていますが、5階建てが「著しく突出した高さ」に値するのか、事業者との認識の差に、住民は複雑な思いを抱いています。
草木が茂る当該地を更地にするため、事業者は風致地区の条例にのっとり、20年8月19日に伐採の許可申請書を提出。わずか2日後に区から許可が下り、伐採工事が始まりました。住民が許可申請書を確認すると、事実と異なる樹木数や粗雑な植樹計画図が記されていることが判明。担当者にただしたところ、「正確な本数の記載は必要ないと区から指導を受けた」と答えました。「手続きの流れの中に住民が意見できる機会がなく、ずさんなやり方がまかり通っている。これで自然が守れるのか」と住民は語り、風致地区条例の形骸化を危惧します。