「尋問は有害」―国を相手取った裁判の証人の候補の一人に、国側が投げかけた言葉としては、かなり異例のものでしょう▼10日に亡くなった作家の早乙女勝元さん。自身も生死の境をさまよった東京大空襲の体験を掘り起こそうと、証言を集め記録し続けました▼冒頭の言葉は、空襲被害者への国の謝罪と補償を求めた訴訟で、早乙女さんを証人とすることに、国側が反対した時の言葉です。早乙女さんが明らかにしてきた被害の実相がいかに裁判の行方に力を持つか、国の恐れがよく現れています▼ユダヤ人ホロコーストの犠牲となったアンネ、ピカソが描いたゲルニカの無差別爆撃、ベトナム戦争下の子どもたち、米軍機墜落の犠牲になった家族…。ここでは挙げきれないほど多くの、戦争の犠牲者たち、平和を伝えるテーマを、その著書に残しました▼東京民報の2020年のインタビューでは、コロナ禍をめぐって「世界中で戦争を止めて、軍事費を人類の安全な生活のためにまわすべきです。その音頭取りをすることこそ、大空襲や原爆を経験した日本の役割」として、「私も、自分の戦争の体験を可能な限り語り続けていきます」と語っていた早乙女さん。多くの人たちに、戦争を語り継ぐバトンを手渡した、90年の人生です。
〈東京民報2022年5月22日号より〉