東京国税局に勤務していた原口朋弥さんは2021年6月、分限処分(ことば)で免職の辞令を交付され国家公務員の職を解かれました。生活の糧を奪われ、住んでいた官舎からも退去させられました。東京国税局は免職の理由について、「どの点が職務遂行上において問題なのか」を具体的に明らかにしていません。原口さんは「具体的な問題点の指摘や指導もなく、密室で怒鳴られ続けるなどのパワハラを受けた。パワハラによるうつ病発症の時も配慮もされなかった」と語ります。現在、処分の取り消しを求めて審査請求を人事院に求めています。

障害で差別やめ取り消しを
原口さんが国税庁に入庁したのは2011年4月。社会人経験枠で佐世保市役所からの転職でした。税務大学校で1年の研修を経て、練馬東税務署管理運営部門に着任しました。
市役所で事務職の経験があっても国税の個人課税部門(主に個人の確定申告に関する任意の税務調査などを担当する部署)の現場は初めてのため、「上席から指導があるだろう」と思っていました。しかし、現実は統括官(直属の上司)が「(年齢を重ねているため)このくらいはできるだろう」と決めつけていたためか、実地調査の同行などが受けられずにいたと言います。
それでも原口さんは職務遂行のため、必死で見聞きしたことや経験をこまめにメモに取り努力を重ねました。しかし、「協力して、あるいはチームで仕事を進めるという雰囲気は税務署内にはなく、統括官が職員同士を競わせるような感じで、周りの人にアドバイスが受けられない環境でした。『1円でも多く税金を取ってこい』と言わんばかりだった」と当時を振り返ります。
仕事ははかどらず、叱責を受けますが、他の職員の面前で怒鳴られる他、密室でも怒鳴られるパワハラが絶えず繰り返されました。
統括官から怒鳴られ続けて体調を崩した原口さんは2014年4月から11月、医師の勧めでやむを得ず休職となりました。その時に配慮ではなく「辞めろ」という無言の圧力を感じたと語ります。復職後の2015年7月、別の統括官から大声で恫喝されるパワハラについて総務課長と相談員に相談したところ、初めて人事評価で最低評価の「D」に引き下げられていたのです。報復と受け取れます。
評価Dを連続で
翌年7月、青梅税務署に異動後、原口さんはケアレスミスなどで自身の発達障害を疑い自ら受診。ADHD(注意欠陥多動性障害)との診断があり、12月に統括官に報告したところ「この仕事に向いてないから退職したほうがいい」と退職勧奨を受けました。
原口さんは一切の配慮もされないまま2019年3月に考査課・人事専門官の面接を経て4月、期末・期首面談で業績評価「D」が開示され、6回連続の「D」評価となりました。
原口さんは5月に苦情処理申出書を提出。全国税労働組合(全国税)に加入し青梅税務署に対して、①不当労働行為の禁止②人事評価の見直しと職場環境改善―を申し入れました。しかし7月に麹町税務署に異動後、一切の配慮もないままに2021年 6月に業績不振を理由に分限免職処分の通知・辞令の交付が強行されました。全国税とともに処分の撤回を申し入れましたが免職。人事院の審査終了までの官舎の使用延長申請も認めず放り出されたのです。
行動監視の記録が
原口さんの代理人の弁護士が人事院を通じて評価を問い合わせたところ、べったりと黒塗りにされた人事評価票が提出されました。再度請求した際には評価を下げられる具体的なミスの記載がなく、「ホチキスの位置がずれた」などの他、「メモを取った」など時系列での事細かな行動監視記録であったことが明らかになりました。
全国税が加盟する日本国家公務員労働組合連合会(国公労連)の大門晋平さんは「これだけの行動記録を取るのは、それ専門の職員がいたのか」といぶかり、「障害者を職場から排除するため、分限処分ありきの対応だ。人権侵害も甚だしい」と語ります。
「徴収できない職員はいらないと言われました。免職という犯罪者のような扱いは許せません。納税者に対して親切にせず、高圧的な対応を取るのは心が痛む。私の覚書のノートも取り上げられて返却されないままで返して欲しい」と原口さんは訴えています。
人事院で中途障害となった職員が2016年12月、配慮がなく「D」評価とされた件の取り消し裁判が職員勝訴で和解になりました。また2019年には、国家公務員での障害者採用が 1.1%で民間以下との報道がされています。「民間を指導する官の役割を再認識し、真摯に対応すべき」と全国税は訴え、「処分取り消しの署名」運動を行っています。(問い合わせは03(3581)3678全国税まで)
分限処分とは 職務適格性を欠くと判断された公務員に課される処分。国家公務員法、地方公務員法において、本人の意に反して免職することが認められている。
〈東京民報2022年7月3日号より〉