【書評】社会からの孤立が生む悲劇 『児童虐待から考える 社会は家族に何を強いてきたか』 杉山春 著

 児童虐待の増加がとまらない。2020年度の全国の児童虐待相談対応件数は20万件を超えています。2019年度に虐待で死亡した子どもは78人となっています。痛ましい限りです。

 この本は、いくつかの児童の虐待死事件をつぶさに追い、裁判も丁寧に傍聴し事件の本質はなんであったのかを追求しています。目を覆いたくなるような悲惨な生活状況の中で命を奪われた子どもたちを考えると、その親を「無責任」「残酷」と責めるだけでいいのかと問われます。

朝日新書 2017年 836円(税込)
すぎやま・はる 1958年生まれ。ルポライター。著書『ネグレクト―育児放棄 真奈ちゃんはなぜ死んだか』(07年)で小学館ノンフィクション大賞受賞

 筆者は虐待をした父親との面会・手紙のやり取りで、子育て中の親がいかに社会から孤立していたかを痛感します。そして、もはや幻想となりつつある「核家族のあるべき姿」=母親の役割規範に縛られ、「助けて!」と言えない地域社会の中で、怒りをぶつける先は子どもしかない閉ざされた「家族関係」を放棄し、子どもを放置(ネグレクト)し、遊びに逃げ出す母親…。

 これらの中に共通しているのは、地域を含めた社会からの孤立です。高齢者虐待や孤独死にも共通します。現在では「社会からの孤立」が悲劇を生むキーワードなのです。

 かつて経験したことのないコロナ禍の中で、貧困と孤立化を深める若い夫婦の子育ては困難に満ちています。虐待の増加はこの現れです。

 2016年に児童福祉法が改正され、一連の対策が強化されようとしています。これまで福祉施策の対象として受け身であった子どもは「愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する」(改正法第1条)と権利の主体として位置づけられました。しかし、最近の「こども家庭庁」のネーミングをめぐる議論にも見られるように、政府は、子育ての責任の「家庭への押しつけ」を狙っています。

 「家族」の現状・機能・役割も大きく変わり、あり方の根本的検討が必要な段階に来ていることを痛感します。家族と地域社会に暖かく包まれ育まれるような子どもの成長環境の充実がのぞまれます。

(松原定雄・ライター)

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