「安心して飲める水に」PFAS汚染 多摩で自主的血液検査〈2022年12月4日号〉

 多摩地域の水道水に使われる井戸水から健康への影響が指摘される有機フッ素化合物(PFAS)が広範に見つかっている問題で、住民による自主的な血液検査が11月23日に始まりました。検査を実施する市民団体「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」は同日、立川市内で記者会見し、年度内に600人規模を目標に採血を進めることを明らかにしました。都や国による大規模な検査につなげ、汚染の原因究明を促していくねらいです。

血液検査の開始について会見する会のメンバー=11月23日、立川市

国や都の大規模調査求め

 PFASは、自然界ではほぼ分解されず、体内にも長くとどまるため、健康への影響が指摘されています(別項1 長く残留「永遠の物質」)。この日午前に、国分寺市の本町クリニックで最初の血液採取が行われ、20~80歳代の男女、29人が参加しました。

 採血を担当した同クリニックの杉井吉彦院長は、「市内の井戸水で汚染が見つかり、驚いたという人が多かった。普段の健診でも、こんなに熱心には来ない。関心の高さを感じた」と話しました。

 血液検査は当初、300人規模としていましたが、問合せが多く、より多くの人を検査するため、分析を担当する京都大学の原田浩二准教授(環境衛生学)の研究室と相談して、倍の600人規模を目標し、今年度中に実施することとしました。

 多摩の各市に実行委員会をつくって、検査会場を確保し、参加する人を募っていきます。分析結果は、来年度早々にも明らかにしたい考えです。

各地の井戸から広範に検出続く

 PFASをめぐっては、2019年に、都の検査で立川市など横田基地周辺の複数の井戸から、国が現在、定めている暫定目標値(1リットルあたり50ナノグラム )を大幅に上回る値を検出したことが発覚。さらに、国立、国分寺、府中の3市の一部の浄水所の井戸からも高濃度のPFASが検出され、都は取水を停止しています。

 都水道局では、ホームページで都内各地の給水栓(蛇口)や浄水施設のPFASの検出状況を定期的に公開しており、広範な地域で検出が続いています。

 明らかにする会の共同代表の根木山幸夫氏は会見で、アメリカでは米軍基地周辺などの汚染対策に本格的に取り組み、飲料水の基準も厳しくしていると指摘(別項2 米軍基地600超で汚染)。「都の水道局は国の暫定目標値以下にして給水しているという立場だが、長く飲み続けることの影響には触れていない。血液への蓄積の状況を調べ、必要な対策を明らかにしていきたい」と話しました。

 多摩地域での汚染の原因としては、米軍基地のほか、工場排水なども想定され、各地の住民の体内への蓄積状況を調べることは、原因の特定などにも重要です。

 杉井院長は、「疫学的な調査をするには、もっと大規模な検査が必要で、国や都に取り組んでほしい。今回の自主的な検査を、行政の動きにつなげたい」と強調。「井戸からくむ多摩の水は安全だと思って長年暮らしてきたのに、まさかという思いだ。次の世代のために、安心して水を飲めるようにすることが一番大切だ」と話しました。

明らかにする会では、血液検査への参加を広く募っています。問合せは根木山さん 042(593)2885 まで。

長く残留「永遠の物質」沖縄の血液検査でも高濃度

 有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)は、泡消火剤や撥水加工などに使われる合成化学物質の総称で、その一種であるPFOS、PFOAは国際的に製造・使用が禁止されています。分解されにくく、自然界に長く残るため「永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)」とも呼ばれます。

 体内にも長く蓄積される特性があり、ヨーロッパ環境機関(EEA)は、PFASの健康への影響として、がんや甲状腺疾患、胎児の低体重などの可能性を列挙しています(表)。

 アメリカでは、化学メーカー・デュポン社の工場の廃液による汚染で、7万人の血液検査が行われ、PFASが腎臓がんや潰瘍性大腸炎などの病気の原因となったことが明らかにされています。

 沖縄の米軍基地周辺でも、浄水場などでの高濃度の汚染が発覚。住民が今年6~7月に血液検査に取り組み、全国での調査に比べて濃度が高い傾向があるとの結果を10月に発表しています。

 東京の国立市議会は、9月に地域住民の血液検査を求める意見書を可決しました。西東京市議会では、大竹あつ子市議(日本共産党)が11月21日の市議会一般質問で、市内の給水所からPFASが検出されている問題を追及しています。

米軍基地600超で汚染 横田基地でも大量使用

米軍と航空自衛隊の合同で行われた横田基地内での飛行機火災を想定した消火訓練=10月26日、米軍横田基地ホームページから

 アメリカ国内では、米軍基地周辺のPFAS汚染が深刻な問題になっています。

 これまでに、アメリカ全土にわたる600余りの基地周辺で汚染が明らかになっています。

 バイデン政権は、PFASの規制強化の方針を発表しており、アメリカの環境保護庁(EPA)は2022年6月15日、飲料水のPFASの基準を、従来の1リットルあたり70ナノグラム から、0.004~0.02ナノグラム へ約3000倍、厳しくするとしました。

飛行機火災時の泡消火剤として

 米軍基地周辺で、PFASの汚染が深刻なのは、泡消火剤に使われた歴史があるためです。米軍は、現在はPFASを泡消火剤には使っていないとしています。

 特に空軍基地では、飛行機の火災事故や消火訓練の際に、PFASを含んだ消火剤が大量に使われてきました。

 空軍基地である横田基地内にも、飛行機の模型が置かれた、消火訓練施設があり(写真)、周辺では繰り返し訓練が行われています。

 横田基地で使われる飲料水のデータからは、土壌や地下水にもPFAS汚染が広がっている可能性がうかがえます。

 横田基地内で使用される飲料水の多くは、基地内の井戸から取っており、その水質を示す年次報告書が、横田基地のホームページに一部、掲載されています。

 最新の2021年度のものではPFASの濃度は、1リットルあたりの最高値28.8ナノグラム 、最低値で5.0ナノグラム。発表当時のアメリカのEPAの基準は、1リットルあたり70ナノグラム のため、「汚染されていない」としていますが、現在のEPAの基準0.004~0.02ナノグラム からすれば、かなりの高濃度の汚染となります。

 明らかにする会の会見で、国分寺市の世話人を務める中村紘子さんは、「専門家の方たちの協力で、ようやく血液検査をスタートできた。汚染源を特定し、汚されてしまった多摩の大地を元に戻したい」と訴えました。

東京民報2022年12月4日号より

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