ウクライナ戦争が始まって7カ月を過ぎたが戦火は止みません。この間、対ロシアへの経済制裁に同調した国は36カ国と極めて少ないのに驚きます。戦争が始まったばかりの3月2日のロシアによるウクライナ侵攻非難決議への賛成が141カ国、反対が5カ国、棄権は中国やインドなど35カ国であったことを考えれば、格段の差です。

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おおにし・ひろし 1956年生まれ。経済学博士。慶應義塾大学名誉教授、京都大学名誉教授。『マルクス主義と長期法則』など多数。
そして、経済制裁はいわゆる「西側」諸国に限られています。人口は11億人にすぎずインド1国にも及びません。これは「西側」諸国が「縮んでいる」ことの現れだと著者は指摘します。もちろん経済制裁に同調しないことがロシア支持でないことは明らかです。
経済制裁に参加しない国々はどのような考えなのか? 著者は、この多くはアフリカ等の「南」側諸国でありウクライナ危機はかつての東西対立だけでなく、世界の底流にある南北の食い違いをも浮かび上がらせていると指摘しています。
私たちは、第2次世界大戦終了後半世紀近く、世界を米ソ対立の冷戦構造と認識し過ごしてきました。1980年代終わりにこの冷戦構造が崩壊し、新冷戦とも呼ばれるようになり主人公も米ソから米中へと変わりつつあります。同時に東西で二分されていた国際関係もアフリカや南アジアの非同盟諸国が国連等を舞台に登場し、大きな発言力を持つようになりました。また、EUや東側諸国内部にも大きな変化が生じています。
ウクライナ危機は侵攻の不当性・非人道性だけでなく、世界の在り方に関するグローバルな問題をも提起しているのです。世界構造の認識にヒントを与えてくれる本となっています。
筆者は、少数民族問題を専門とするマルクス経済学者です。このため、本書でも少数民族問題を入り口とする経済学的視点が貫かれています。そして、何よりも実際に現地へ行って取材・調査した結果を報告しているのが貴重で説得力を高めています。この視点から中国の「一帯一路」戦略の実際とその評価、ウイグル・香港・台湾問題などについての見解は、多分にゆがめられた「西側報道」にしか接していない私たちに、目を開かせてくれるものがあります。
(松原定雄・ライター)
〈2022年10月16日号より〉